会いたくて会いたくて会いたくてしょうがなかった、愛してるって愛してるって愛してるって伝えたくてしょうがなかったん、だ。

先輩、先輩。
スケボーで地を滑る、力強く蹴って蹴って前へ前へと進む。先輩、先輩。無力で小さい俺は広大な世界で必死に抗っていた、ただただ、会いたかった。その人を脳裏に思い浮かべて苦しい呼吸も少し和らいだ気がした、けれど胸が叫ぶんだ、早く早く、早くもっと早く。
「っ、うわ!」
がしゃりとタイヤが石を巻き込んで躓いた、手を前に出して衝撃に備えた。焦りすぎた気持ちは身体には追い付かない、身体を地面に擦り付けながら微かな痛みに一人自嘲した。「いっ、てえ…」立ち上がり煤けて乾いた泥を払い落とす、腕と膝の肌が裂けて血が滲む。
「は、」息を吐いた。
赤い夕焼け、連想して、思い馳せるのは、いま、一番会いたいひと。
スケボーを置いて走り出した。
風を切る、びゅうびゅうと耳にまとわりつく音と自分の心臓音と断続的な荒い自分の呼吸、すべてすべて、ちっぽけだった。
すべてすべてちっぽけだったから、無力で矮小な存在だと気付いたから、自分と同じ、あのちっぽけな存在に会いたくなったんだ。あ、いや違うな、あの人は俺にとってちっぽけな存在じゃなかった、大きい存在だった。誰よりも強くて格好良くて優しい人で誰よりも愛しい人、俺の好きな大好きな人。誰よりも、誰かより、誰にも、好きで、大事で、渡せない、人。
当たり前のことを、今日俺は気付いた。
そう考えたのは俺が生きてるからで、そう思えるのはあの人が生きてるからで、そう気付けて伝えたくなったのはお互い、存在しているからで。
それは当たり前のことなんだけどそれが当たり前じゃなくなる前に、当たり前が当たり前だと判別出来る内に、伝えに、伝えに行きたくなった。
マサラタウンの看板を目の端で捉え、柵に手をかけて飛び越えた。着地の際に駆使しすぎた膝が砕けて地面に崩れる。起き上がって疲労してぼろぼろになった身体に鞭を打って走る、足を引き摺って、それでも、それで、も。

「レッドせんぱ、」
赤い屋根は色鮮やかに夕日に溶け込む、目に痛い、じわりと胸に染みて、涙が浮かぶ。
赤い屋根の家の前、そこに、いま一番会いたくて仕方ない人が、立っていた。
扉に背中を預けて、夕日の赤に照らされながら、にっこりと、笑って俺を見た。
思わず足が止まった、数メートルの距離、満身創痍で荒い息の俺を下から上まで眺めて、そうして数歩、歩いて両手を広げた。
意味が分からず、レッド先輩を、見上げた。
赤色の瞳が、優しく、愛しそうに細められて、そして、一言。

「――― おいで、」

その胸に、飛び込んだ。
背中に回された腕が強く俺を締め付ける、固い胸に頬を擦り寄せて俺も先輩の背中に腕を回す。すがり付いたあたたかさに、涙が零れた。
「ゴー、」
汗が滲む額に額をくっ付けて、先輩は顔を緩ませたまま、俺の名前を呼んだ。言葉に溢れるほど込められたのは、催促の意味と、愛しさの感情。なあ、あんたに伝わるかな。
ちっぽけな存在なんだけどこれはさ確かな考えで思いで、伝えたかったんだよ。
会いたくて会いたくて会いたくてしょうがなかった、愛してるって愛してるって愛してるって伝えたくてしょうがなかったん、だ。
だからさ、お願い、伝わって。
当たり前のことだけど、大切なことだから。

「世界で一番、あいしてます」
顔を見合わせて、幸せだから、二人で笑った。


世界で一番愛してるを伝えに来たの。

(赤色に包まれた世界で愛を誓う。)
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