何処か、誰よりも期待して、ひとり、諦めたような、めを、していたから。

辛かったなあ、とゴールドが呟いた。ちぐはぐな感覚、内面と台詞が合っていない、背中を擽られるような違和感。
「ふうん、辛かったの?」
「そっすねえ、辛いこともいっぱい合ったな」
バクフーンに寄り掛かりながら眠そうに言う。今頭に過ってるであろう、たくさんの記憶のなか、ゴールドの一番辛かったことは、何だろう。別に無理に聞く気は、無いけどさ。
「へえ、…もう寝ようか」
「ですね、先輩そこの毛布投げて投げて。」
「ちゃんと寝袋で寝ろよ」
「バクたろうのがあったかいし、寝袋窮屈なんすよ。」
毛布をぶん投げたらゴーの顔面を直撃したらしく情けない声を上げた、それに笑って俺も寝袋を引っ張り出した。
「おやすみ、明日は一匹くらい倒して見せろよな」
「はん、むしろ打ち負かしてやりますよ…おやすみなさい」
焚き火を消してしんとする洞窟のなか、声をかけて寝袋に潜った。
今日もシロガネ山はさむい、明日は吹雪くだろうか。








寂しそうな、なきごえが聞こえた気がして、夢から覚醒した。
「…ん…?」
なんの夢見てたんだっけ、虚ろな思考で考えたが思い出せなかった。まだ夜中、だよな、もう一回寝よ。
身動ぎして何となく目を薄く開いた、「ん?」闇に慣れた視界が捉える、先程まであの場所に居たゴールド、何処行った?バクフーンも居ねえし、あれ。
むくりと寝袋から這い出た、目を擦って上着を来て洞窟の出口に歩いた。睡眠で体温が下がった身体を腕で抱き締めるように擦る、さむいまじさむいしぬ。

「ゴールドー…?」
狭い岩肌を潜る、洞窟から抜け出れば一面の雪景色が広がった。ちらちらと微かに粉雪、輝く白が目に痛い。シロガネ山の夜の帳、闇が覆う筈なのに白が微弱な輝きを放ち、神秘的な世界を魅せる。けれどそんな、何もない黒と白の、まっさらな空間の真ん中、ぽつりとゴールドは虚無な空を見上げていた。
「ゴールド、」
小さく肩が揺れた、けれど視線は雲に覆われた空から逸れない。
「…ゴールド?」
焦れたように名前を再度呼んだ、ゴールドの側で踞っていたバクフーンが静かに鳴いた。
「せんぱい、」
お前は何を見ているの、近寄ってゴールドの顔を除き込んだ。焦点が虚ろなまま、ゴールドは弱々しく俺の服を掴んだ。
「おれには、おれには、なにも、」
なにもありませんでした。
吐き出されたのは白い吐息と、何の感情も込められてない、淡々とした死んだ言葉。意味や感情が含まれないそれは、無機質な機械の文字のよう、少なくとも生きている人間が放つ言葉では無い。
前髪で顔が覆われるのが何故か嫌で手で払い、そのままゴールドの顔を固定して金の瞳を見据える。
「つらかった、なんてうそです。」
つらかった訳じゃない、つらいのはいまだ、過去形では無い。頑張って頑張って頑張った癖に何もない自分が、そう理解出来る自分が辛い。ゴールドは機械的な単語を作業的に呟き、出し続ける。先程感じたちぐはぐな感覚の原因がこれで分かった。
「おれには、なにも」
「なにもなくないよ、」
ぐるりと、視線が定まらず上下左右に揺れた、じわりと、何も移さない瞳に水が溜まる。「なにも、なくない、よ。」一言一言区切って、確かな口調で言えばぼろりと大きな滴が零れた。「ない、おれには、」壊れたロボットのように同じ言葉を吐き出すその口を塞ぐように、優しいキス。
「レッドせんぱ、」
困惑に溺れ、絶望に沈む瞳から止めどなく涙が溢れる。苦しそうに身体を震わせて、嗚咽を我慢する非力で無力なゴールドを、力一杯抱き締めた。
背中に回された手が、もがくようにしがみつくように俺を抱き締め返した。離さないから、大丈夫だよ。
バクフーンが、か細く鳴いてのそりと起き上がり俺達に身体を擦り寄せた。
俺を呼んだのはお前かな、泣きたかったのはゴールドだけど鳴いて俺を呼んでくれてありがとう、助かったよ。
「ゴールドは、なにもなくないよ」


まだ僕がいるだろ

お前の望んで期待した言葉を、あげる。
(だから、まだ諦めるには早いよ。落ち着いたら一緒にバクフーンに凭れて寝ようか。朝になったらバトルする前に色んな話をしような、その前にお前を世界で一番好きだと、言わせろよ。)

Title/虫喰い
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