それでも、ゴールドの差し出した手を握ったのは紛れもなくあの日の俺だった。
行きましょう、と空気を震動させて重く痛く吐き出された言葉を噛み締めた。
「どこにいくの、いけるの。」
「先輩が望んだところなら、何処へでも。」
お前は付いて来てくれるの、疑問は形になる前に深く深く淀んだ内心に沈んでいった。 
「大丈夫っす、俺も行きますよ」
俺の内心を読み取って、笑って言ったそれに嘘は確かにひとつも無かった筈だった、けど。
「ゴールドはあの日、俺に嘘をついたんだ。」
お前が手を差し伸べたほうじゃない、もう片方は、何処に繋がっていたの。
問い掛ける術は、いまやこの手には無く。



(SP赤とSP金。)




まどろみのなか、落ちた日を探し出す。
寝返りをしたらソファーから落ちた、腰と肘を強打した。
「………。」
じん、とした痛みを発する箇所を撫でながら重い瞼を開いた。
「……ヒビキ、」
確か、自分一人でソファーに寝ていた筈だ、何故彼も一緒に寝ているんだろうか。
首を傾げながら絡まって共に落ちた、見覚えの無い毛布を拾い上げた。
彼が掛けたのだろうか、というか彼が居たから自分はソファーから落ちたんだろうか。明らかにこのソファーは寝る用では無いし、サイズは小さすぎて一人分がせいぜいってところなんだ、けど。
…まあいいか。丸まって眠るヒビキを包み込むように抱き締めて、毛布を被り目を瞑った。
うららかな春のあたたかさに紛れる、柔らかな心音を感じながら俺は眠りに付く。
君に落ちたあの日のことを、俺はいまだ覚えている。


(初代赤と響。)




君が確かに居た、あの日。
「初めまして。原点であり、我等が、頂点。」
酷く噎せ返りそうな熱気を纏って、対照的な冷めた顔をしながら彼は、現れた。
「先輩とはあんま似てないっすね、まあそんなもんか。」
理解されようとは思ってないであろう、確認作業のような一人言を、彼は淡々と喋り続ける。
刹那、突き刺すような、鋭い金の眼光が、俺を捉えた。

「俺はあんたが憎いよ、」
バトルに負けても彼の飢えたような金の煌めきは失われることはなく、ビリヤードで使うであろうキューを俺の喉元に向けて言った。
「こんなにも求めてんのに、違うんだろ。差し出したこの手はあんたじゃない、赤を握ったんだ。」
キューを手で避けて、強く握られた彼の指先をひとつずつ開いて、その小さな手を握った。
「…良いバトルだった、名前は?」
「………   、」
ぐにゃりと世界が歪む。
揺らいだ視界の中、かげろうのような彼はなにかを呟いた。
目が覚めた時、金の彼は消えていた。何処に、なんて分からない、何処から、なんて知らない。それでも、確かに握った手の感触は、この手の中に。
誰に問う術は無くとも、彼はあの日、確かに存在していた。



(初代赤とSP金。)



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テーマ「人外ファンタジー」
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