足音を鳴らさないようにゆっくりと近付いて、俺のベッドで雑誌を片手に抱きながら、眠る風丸に近付いた。腰を下ろそうとしたがやめて、膝を着いた。ベッドの縁に腕を乗せて影を被せながら顔を除き込んだ、顔半分を覆う前髪がなんだか勿体なくて指でそろそろと優しく払う。

一連の行動に身動ぎすらしない風丸にほっとしつつも自分の行為が下心からのやましいものだからか、それ故に背徳的な気分にさせて体内の熱がじりじりと上昇する。

触りたいな、
触れたい、
触りたいよ、
触れたら、どんな表情で、感情で、お前は俺を見る?


溢れ出しそうなそれを必死に蓋をして、抑え込んだ。膨れて、孕んで、ほんとは今にでも破裂しそうなんだ、破裂して、お前にさ、全部押し付けて、同じ感情だろと、乞いたい、むしろ刻み込んで、すがりたい、無理矢理にでも、奪いたい、強制的に、書き換えたい、特別だと、思わせたい。


「……知ってるか、これって、恋愛、感情なんだぜ」

こんなにもどろどろで、ぐちゃぐちゃで、非常に軋んで歪みを極めたこれが、どうしようもないこれが、ぐつぐつと色を深めて煮詰めに煮詰めたきったようなくろぐろとしたこれが、ただただ先走る重い重いのこの感情が――、

俺の、恋愛感情なんだぜ?

「……はは、初めての恋愛感情が、こんなにも、どうしようもない、物だと、思わなかった」

欲しい、って。

ただ欲しいって、思って、たから、さっき、意識を浮上した時に、視界に入った光景に、ほんとうに幸せだと感じたんだよ、馬鹿みたいに、笑いたくて泣きたくて、だから、滲んだ瞳でお前を見詰めながら柔らかく笑ったんだ。


幸せ、になりたい、幸せになりたい、お前と幸せになりたい。

投げ出された風丸の片手を両手で握った、祈るように願うように乞うように、ただ思いを込めて強く強く、
強く、強く。


「いつか、気付いて、な」

それまでは大事に秘めて、隠しておくから。
ずっと、ずっとお前に気付かれないように、さ。

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