どどど、と未だに落ち着かない心臓を静めようとコップに並々と水を注いで一気に飲み干した。熱を持つ頬が風呂上がりだからと言い訳が出来るのに無性に安堵した。

ぽたりと、しっかりと水分を拭き取らなかった髪の毛から水滴が垂れて手の甲に落ちる。少しずつ冷静になる思考に無意識に詰めていた息をゆっくりと吐き、使用したコップを注いで流しに置いた。

「守ー」
「なに母ちゃん?」
「来客用の布団、居間に出しといたから持っていってね」
「おう分かったーあんがと!」
「夜更かししないで早めに寝るのよ」
「おーおやすみ!」


駆け足で居間へと跳ねるように走り、押し入れの前に置かれた布団を抱えて二階へ上がる、たんたんと足を軽快に鳴らす。プリントは風丸が風呂に入ってる間にもう終わったし、さっき風丸が俺の鞄を整理する際に発見した折り紙で遊びたいな、と就寝までの予定を練る。
あの微妙な気まずい雰囲気も払拭出来るだろう、とまで考えて、ちょっと苦い気持ちになった。

半開きのドアを足で押して視界を覆う布団を床に下ろした、顔を上げて、そこで一瞬脳内でやばい、と警告を鳴らす、心臓が、ぎゅうと握られたように締め付けられる。


風丸、

喉の奥で言葉は失われて、声には出せなかった、ただ後ろ手で静かにドアを閉めた自分が居たことだけは、うん、まあ、なんとも素直な自分だった。


うん、まあ、うん。

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