少し肌寒い。

ぶるりと身体を震わせて重たい瞼を開いた、何だかひたすら長い長い、夢を見ていたような気がする。こころを奪われたような、束縛の所有権を得たような、子供に戻って喧嘩をしたような、言葉で攻められたような、身体を斬りつけられたような、涙を流されたような、永遠を、誓われた、ような、そんな。

ひとつは実際に合った過去の話だったような気がしたが、あまりにも鮮明なそれにどれが真実かどれが夢幻かが混ざって、首を傾げた。
やはり覚醒したばかりの脳は小難しい思考をしてはくれない、太くたくましい大木に寄り掛かって眠っていた身体を起こす。立ち上がって背筋を伸ばせば骨がみしりと鳴った、縮こまった姿勢は身体の節々に負担をかけたようだ。
すうと息を深く吸えば木々や足元に咲いた花から若々しいにおいが肺を満たす、今日はとてもいい天気だ。

「    、」

小さく名前を呼ばれたような気がして振り返る、木漏れ日の中を落ち葉を踏み締めてゆっくりと歩く姿を見付けて、不意に。
この道しか無かったんだろうか、と、ふと考えた。振り返そうとした手が行き先を失ってだらりと落ちた。本当は、もしかしたら、もしかしたら、違う道を、自分は選ぶべきなのかと考えて、考えて、ばかばかしくてやめた。

なんだかやはり頭が働かないしとろりとした思考が現実味を曖昧にする、やっぱりこれは夢なのかもしれない、先程まで見ていた夢も全部全部自分の夢なのかもしれなかった、全部夢で幻で、もしかしたら誰かと下らない殴り合いの喧嘩でもして、不貞腐れて、寝ている最中なのかもしれなかった。


それでも、
笑いながら手を降る相手の姿が眩しくて、どうしようもないくらい、愛しくて、やはり幸せだなと、柔らかく微笑んで、アリババは再度手を降って走り出した。



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だれおまえ、

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