「あんたのせいだ」

曲げることも捩ることもしない直線的な言葉がぐさり、と彼の胸を抉ればいいんだ、傷付いて傷付いて傷付いて、俺を憎んでくれたらと思った。
そう、無性に願った。

「……んなこと言うなよ」
「あんたが、」

非難の言葉は途中で途切れた、喉がひぐりと鳴いて唇が震える、じわりと視界が歪んで、最後にぼたりと涙が垂れた。情けない、惨めだ、それもこれも、彼が俺に与えた感情のせいだ、ひどい、ひどい、ひどい。俺の内面をここまでぐちゃぐちゃに荒らしといて、彼の内面には俺の影響は、全く無い。なんて、ひどい。

「あんたは俺を絶対に好きにならないんだろ」
「白龍のことは好きだけど」
「ちがう、俺が欲しいのはそれじゃない」
「うん、だよな」

少しだけ自虐を込めて皮肉を含んだ自嘲が、彼の顔に影を落とす。水滴が流れ続ける目を手の甲で擦ったら不意に伸ばされた腕が目尻に浮かんだ涙を掬った。

「すきだけど、なあ」
「すきだけど、ちがう」
「白龍と俺はやっぱり、違うんだな」
「何をいまさら、言うんですか」

ぼろぼろと落ちる涙を指で掬い上げて淡々と喋る彼の心臓は、ここにはない。
知っている、解っている、相容れない立場だからこそ、こちらがわに存在する一人の人間が、彼の、アリババ・サルージャの心臓を奪ったことを、理解している。あの誘拐犯が嬉々として、宝物を得たと、語っていたから。

「先に誘拐してやりたかった」
「俺を?」
「あんたの心臓を」
「……無理だな、もう」
「ここには、ない」

彼の心臓が存在したであろう場所に服越しに指を這わせた、伝わる不規則な心音が生命の鼓動を響かせる。それでもここにはない、本物の臓器はあるけれど、柔らかくて優しくて甘い、俺が欲しいものはもう、とっくに奪われた、あと。

「ほんと、みんな、こどもだよなあ」
「みんな、ってだれですか」
「俺を含めて、みーんな、だよ」

遠くを懐かしむように細められた目は哀愁を帯びる、何処か大人びたその視線に無性に苛ついて、俺の涙を拭っていた指を掴んで引き寄せた。ぐらりとよろけた彼の頭を掴んで視線を無理矢理絡ませる、驚いて見開かれた眼球に照らされた自分はやはり涙でぐちゃぐちゃだったけれど、以外にも、生意気な笑顔を上手く張り付けていた。

「はく、」
「残った方の、」
「え」
「なら、残った方の、あんたの心臓を、俺が奪ったって、」



(あんたのせいだよ。)
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凾「やいやこれも統べては甘い伏線。
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