伏せられた目が、何を物語る。

黙秘したまま一切語らない唇に指を突っ込んででも抉じ開けて喋らせてやろうか、と一瞬考えて冷静にその考えを叩き潰した。流石にそれは大人として常識的に可笑しい、眉を微かに寄せる事で重々しい空気を保つ。

「何が合ったのか話してはくれないのかな、アリババくん」

無言を貫いたまま視線を足元にさ迷わせる青年の頭は先程からずっと、項垂れたままだ。顔を合わせることを拒絶するかのように俯いた顔に陰が落ちて表情が分からない、せめてもの意思表示は下げた頭を横に振ることで何とか示された。

「君がいきなり国から消えて、約二週間。そうして今日の明朝、昨晩帰ってこなかったアラジンと共に帰ってきた。お互い、満身創痍でね」
「……二週間」
「そう、正式には十六日間。アラジンの腹の傷が一番酷かったが、ちゃんと止血を君が施したおかげで大事には至らなかった、しかし」

何が合ったのか、を語らない。
黙したままの彼の脳内では何が記憶されているのか、それを知りたくて知りたくてしょうがないというのに。

「俺には君達を食客として守る義務もある。それと、君は強い、アラジンも強い。それなのにあれだけの怪我をしたんだ、余程のことが合ったんだろう」

糾弾、弾くように責め立てて突き刺すように言葉を捻っては巧みに回す、少しの憤慨、一掬いの労り、大量の疑問、単なる確認作業にしかすぎない、言葉に混ぜて吐き出す。

「俺は心配なんだ、君が、君達が」

十六日間、シンドリア王宮内ではかつてないほどの混乱と疑問で掻き乱された。王として、仕える者達に対し、不安を煽るような行動は出来ない。だから表面上では落ち着きを払ってアリババ君の消息を探させる指示を与えつつも、何時もよりも執務をしっかりとこなしてなるべく普段通りに振る舞った、つもりである。
けれど、彼は語らない。

「別に、……何でも、無いです」
「アリババくん」
「すいません、大丈夫です、もうあんなこと起きませんから、何も、だから」

(ほっといてもらえませんか。)

遮断。
うむ、腹が立つくらい生意気な態度だ。可愛らしいとも思うがこうも頑なに拒否されては少し苛立つ、やはりその唇に指でも突っ込んで抉じ開けてやろうか。

常識ある大人が、子供に行う対応としては確かに可笑しいが個人的に好いている彼に嫉妬として受理されるなら、行動に起こしても問題ないだろう、と、そう思っている、考えている、そう思考している。
だが、まあ、一旦落ち着いた方がいいいだろう、彼も俺も、お互い。

困ったように下がったままの肩を軽く二度叩いて、おそるおそる顔を持ち上げた彼に優しく笑ってみせた。ようやくホッと一息着けたように少しだけ唇を緩ませて、彼も控えめに笑んだ。
うむ、まあ今回の所はお互い保留だな、致し方ないだろう。

ああ、ちなみに、追記としては、そうだな。
俺はアリババくんを性的に好いている、ってことぐらいだろうか。

----
剌梶X本音。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -