懐かしい話をしない。
昔のことだ、カシムと俺は毎日のように喧嘩をしては毎日の恒例のように仲直りをしていた。時折本当にお互い血が出たり痣が出来たりしてしまうほどの殴り合いをしたこともある、大体そういう時は誰かが間に入って止めたりカシムの妹のマリアムが泣くことが、俺らの中で決められた仲裁の合図だった。その日は路地裏で回りに大人も子供も偶然にも、マリアムも居なくて何が原因かは覚えてないが殴り合いの喧嘩になった。一歳差とは言え、力は互角だったはずなのに大体の確率で勝つのはカシムで、その日もやはりカシムが優勢だった。俺は髪の毛を捕まれて顔を無理矢理上げられて痛いやら悔しいやら腹立つやらで涙を浮かべながらも下からカシムを睨んでいた、カシムも最初は俺が謝るまでこうするぞ、って威圧を込めて見下ろしていたはずなのに徐々に表情が乏しくなり、暫くの無言の睨みあいの後、何故か驚いた表情で突如俺の頭を手放した。
その日は多分なんやかんやで中直りした、確か。
そうして最近の話になる。
色々長い年月をかけて別れた俺らはまた出会うことになる、がこのへんはまだ整理しきれてないこともあるのでまあ置いておく。言っておくがこの思考は単なる現実逃避の閑話休題でしかない。だからカシムが度々俺に向けていた濡れたような鮮やかな瞳の話をしている。そうそう、久しぶりに出会ってからもカシムはたまにふとした時に子供の頃に見せたあの瞳で俺を見詰めていた。
大人になって解った事がある。
懐かしい話をしない、と前置きに呟いた通り、懐かしくはない。何故なら俺はまぶたを閉じるまでもなく鮮明に思い出せる事実であるからだ、そう。
ああやって、瞳に滲ませた、歪に傾いた欲の名前だって、大人になった俺には明確に解ってるんだぜ?
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剋ゥ覚されなかった加虐心