喉の奥で絡み付いたまま剥がれない粘着質の塊がある、吐き出そうと口を動かしたが、残念ながら零れたのはか細い吐息だけだった。意識が掠れそうになるのを堪えて大事な友人の名前を、すがりつくみたいに、必死に叫んだ。

「……ッ、アラジン!」
「なんだい、アリババくん」

こてんと首を傾げて、うふふ、といつものように柔らかく笑おうとしたのだろうが、頬が引き吊ったようにびしりと固まり、一瞬で苦痛の表情へ変化した。ひゅう、ひゅうひゅうと喉の奥で、つっかえているのは、悲鳴とか嗚咽とか、他人に見せたくはない惨めな感情で、プライドで押し留めようとしているが、喪失を否定したい恐怖心で、ざわざわと心臓が、うるさい。

「君を助けに来たんだよ、アリババくん」
「ちが、ちがう、アラジン」

アラジンが所持する魔法のターバンは持ち主の状態とは比例し、俺達二人を乗せて迷いなく一直線に突き進む。
特別な存在である、マギだって、結局はただの人間だ。人間で、アラジンはただの小さな子供だ。アラジンと同等の立場であるはずのもう一人のマギが脳裏に浮かんで、耳の裏が焼けるように熱くなった。

あいつに拉致された、のがそもそもの原因で、助けに来たアラジンが深手を追いつつもなんとか逃げれた今の現状、歯痒い、なにしてんだ俺は。拉致されたのがそもそもの原因じゃねえ、俺が拉致されるほど弱かったのが悪い、俺が悪い。
アラジンに怪我をさせた俺が悪い、あいつの下らない戯言に耳を傾けた俺が悪い、剣が無いからって、抵抗をしないで、外からの助けに期待した俺が、どうせ来ないと不貞腐れて、誰に浚われたのか分からなければシンドバットさん達だって動けないのに、俺が「アリババくん僕はね、」

「君をね、失いたくは無かったんだ」

俺の身体は栄養を取れず随分と痩せた、けれど抱き抱えたアラジンも前より確実に線が細くなったと分かる。アラジンの腹から流れ出る血液を止めるために押さえつけた白い布が滲む、視界が滲む。

「僕は、」

下から俺の顔を除き込んで腹に置かれた俺の手に赤みを失った指先を重ねて言葉を紡ぐ、そしてふわりと、この状況には相応しくないほど、柔らかく、優しく、歪なほど綺麗に微笑んだ。

「僕は君の一部だ、僕は君のマギだ、アラジンである僕のすべては君のためにある」

惚れた弱味って奴かな、ごほりと咳き込んで熱が灯る目をアラジンは細めた。俺はその言葉に頷くことも、無言を貫くことも出来ず、ただ死ぬな、と呟くことで喉の奥で固まったままの惨めな嗚咽と束ねて、曖昧にアラジンの告白を誤魔化した。

「何を言うんだい、」
「……アラジン?」
「死ぬ時は君も一緒だよ」
「アラジン」
「君を一人にはしない、許さないよ、僕を忘れるなんて、さ」
「そう、か」

―――ジュダルみたいに、言葉が狂喜に満ちて、胸を削ぐような、刃の切っ先が向けられた訳ではないのに、何故か心臓が握り潰されたような圧迫感がこの言葉にはある、重い。それなのに何処か、安心出来るような、奇妙な感覚が、喉で止まったままだったわだかまりをほぐして、ようやく涙の存在を俺に認識させた。

「ね、アリババくん」

最後にアラジンが小さく、それでも確かに意志が込められた問いを呟いて、瞼を閉じる。
すう、と安らかな寝息を立てて落ち着いた呼吸に安堵した。そうして、じわりと思考を蝕んだ言葉が涙腺を刺激して、内面を削がれた際に出来た傷から溢れ出た血液と共にぼたりと落ちた。

「どっちを、君は選ぶの?」

(僕だけを選んで。)

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