喉の奥で絡み付いたまま剥がれない粘着質の固まりがある、飲み込もうと口を動かすのも億劫になって、ある日俺は呼吸をやめるように抵抗をやめた。多分、喉の奥でつっかえたまま、吐き出せない固まりの名前は期待とか願望とか、他人にすがるような甘えの感情で、諦めで流し込めば案外そんなもんかと受けいられるものだ。

「なーお前最初みてーに抵抗しねーの」
「あきた」

乾いた唇と口内から零れた声は掠れていた、水分を長いこと摂取していないような気がする、軽く咳き込んで浮上した餓えをまぎらわした。

「勝手に飽きんなよ」
「しるか」
「もうちょい喋れば」
「むり」

長くて重そうな水編みを揺らして俺を見下ろすジュダルは不服そうに唇を尖らした、思わず笑いたくなった。お前はさあ、ジュダル。俺をさ、なんだと思ったんだよ、俺一人を拉致したくらいでなにか劇的な変化でも起こるとでも考えたわけ?例えばシンドバットさんが動くとか、例えばお前が好きな戦が出来るとか、そう、俺みたいに、勘違いしちゃったわけ?ばっかばかしい、唇に自虐的な笑みを乗せて笑ってやった。

「がき、みてー」

がき、子供みてえこいつ。まんまるい瞳がくりくりと動いて、俺の動作ひとつひとつをじっと観察しているのがなんだか面白い。もう一人の、俺の友人で、ジュダルと同じ役割であるマギの子供を思い出して、不意にその髪に触れた。夜の色をふんだんに詰め込んだ毛は真っ黒だ、青くはない、あいつみたいに青くはない。思考の懐かしさを惜しむようにぐしゃりと撫でれば細められた瞳がこの行為を受け入れた。

「なあ、」
「なに」

床に寝転んだ俺の脇に手を差し入れて、壁に寄りかかれるように座らせたかと思いきや、頭をぼすぼすと叩かれた。手のひらで押すように叩かれたので痛くはなかったが、その行動の意味が理解出来ず頭の中が疑問で埋め尽くされた。

「出たい?」
「は」
「お前、自由になりたい?」
「は、」

なにをいってんだ、こいつ。いきなりシンドリアで食客として宛がわれた部屋に待機していた俺の前に現れて人をぶんなぐってさらに拉致監禁しといて、放置のあげくのはてに自由になりたいか、だって。なにこいつ、なんだこいつ。

「なりたくねーの?」
「、なりたい」

顔を除き込むように腰を下ろしてしゃがんだジュダルに噛み付くように言葉を返す、形の良い眉が微かに動いて、そうして真っ赤な唇が笑みの形へ彩られた。
にこりと笑って、氷の刃みたいに、突き刺す一言。

「なら一部だけでも置いていけ、お前の一部だ」
「いち、ぶ」
「手足頭指耳眼球、まあどれでもいい、置いていけ。なんなら俺がやってやるよ」

ざくざくざくざく歪に曲がった台詞が冷えきった心臓に降り注ぐ、ざくざくざくざくと削がれた心臓が今更のように警告音を叫び始めた。こいつに、まともな思考を、期待するな。子供のように単純で明快な思考回路をしているくせに、餓鬼みたいにネジ曲がった発想をしやがる、こいつやっぱ、可笑しいわ。
きらきらと嬉しそうに瞳を輝かして、何処か不適に笑ったジュダルが指先を俺の心臓がある左胸へ向けた。
艶やかな声で最後の追い討ち。

「……心もありだぜ?」

どっち、だ。

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凾ネまぬるいストックホルム。
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