溢れる程の愛を与えられると、どうしていいのか分からなくてまた俺は背を向けてしまう。
多分、いや絶対。
あの人のせい、だ。
俺は今まで無償の愛を与える立場だった筈で。母さんやコトネちゃんにポケモン達、与えて、与えられる、そんな優しい関係で俺の愛情は育まれた。だから、あの人から向けられるものに怯んでしまう。
好きだ、愛してる。俺に向けて言われた台詞に泣きたくなるほど胸が痛くても、拒絶の言葉すら返せずただ逃げてしまう俺をあの人は愛しいと言う。それをまた聞く度に心臓は破裂するほど高鳴り、目眩や吐き気がしても、向けられる感情を嫌だとは思えない。
殺されそうだ、あの人に背を向けて走った時に脳裏に浮かんだ。
あの人は俺をぬかるみに落として、愛でてゆるやかに殺す気なのだ。向けられる愛に怯える俺を笑い、逃げ道をひとつひとつ塞いでゆっくりと、けれど確かに、じわじわといたぶって疲れた俺が立ち止まるのを待っている。疲れた俺をまた笑って、そうして逃げれない俺を捕らえて、ぬかるみへと落とすんだ。
膝に手を付きながら荒い息を整えて、ふと泣きたくなった。愛して欲しいなんて思ってない、愛されたいなんて願ってない。もうほっといて欲しい、関わらないで欲しい、俺を殺さないで欲しい。あんなに重くて押し潰されそうな愛は知らない、俺はあんな愛を返せない。俺はあの人とは、いれない。
ピリリ、リリ。
ポケギアの着信音、滲んだ目元を袖で拭い、開いた画面に表示された名前は。
「…グ、リーンさん」
出るものか、今こうして俺をぐちゃぐちゃにする、人からの、電話なんて。
近くに合った木に寄り掛かりながら、空を見上げた。溜め息をひとつ吐こうとして息を大きく吸い込んだ。ああポケギアうるさい。
「出ろよ」
「っ、…ごほっ、!?」
盛大に噎せた、振り向いて声がした木の裏側を覗けば今一番会いたくない人が居た。逃げようとしたら腕を捕まれ、未だ煩いポケギアの会話ボタンを押され手渡される。
「ほらよ、」
そうして彼はまた木の裏側へと引っ込んだ、ぐるぐるする思考の中、とりあえずポケギアに耳を当てた。
「あー、もしもし?」
わざとらしい、電話と背後からの二重奏、先ほど吐けなかった溜め息を吐いた。
「溜め息とかひでえなお前」「すいません、ね?」「まぁいいけど。」「…何で追いかけて来たんですか、今日に限って。」「んー、まあ、心境の変化つーか」「はあ」「お前聞く気無いだろ」「ええまあ、」「まあじゃなくてとりあえず聞けよ。」「盛大な愛の告白なら聞く気ありませんからね。」「じゃあ質素な恋の告白なら聞くのか?」「え、いやですよ」「ざっけんな」「あは」「とりあえずさあお前」「はあ」「俺から逃げんな馬鹿。」「………。」「流石に逃げられると傷付くつーの。それに逃げられると捕まえたくなるしでも追おうとするとお前逃げるし、引いても無駄だったし、まじ俺精一杯なんだけど、超俺だっせーじゃんかよ。」「……はあ、」「向けられた感情に怯んでも、それが自分が知らない感情で合っても、自分自信に言い訳すんのもそろそろ諦めて、やめれば?」「は?」「まあ、あれだあれ、あれだ。」
「もういい加減、俺の愛に包まれちまえ。」
あ。
うそ、
死んだ。

切れたポケギアを片手に振り向いたけどもうグリーンさんの姿は無かった、うわ、あのやろう、なんてことしやがった。いい逃げ、かよ。
ずるずるとしゃがみこんで顔を両手で覆う、多分いや絶対、俺顔真っ赤。
最悪、ほんともう最悪。
とっくのとうに俺はぬかるみに落ちていた、嫌だとは思えない、その時点で気付けば良かったのに。ああみっともない、ほんとあの人俺のことどうしたいの!もう、もうもうもう!
ポケギアを開いて履歴の一番上からその番号を引っ張り出す。
素直に言いますよ、ええ、もういい加減、包まれてやりますよ。
何度も死にそうになりながら、言えなかった言葉を俺は、やっと彼へ伝えた。





わらうなよ 俺はあんたを殺しにいくよ


「愛して下さい、俺を。」


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