立ち止まることを教えてくれたのはこいつだった、立ち止まることをしないのはこいつだった、立ち止まることが出来ないのも、こいつだった、前を見据える瞳は確かに凛として強い意思だけを宿す、だけども感情は含まれていないようにも思えた。
「ゴールド」
「進もうぜ、シル公」
名前を静かに呼べば、重みが込められた先を促す言葉が俺の心臓を揺さぶった、不確かな全方を捉えていた金の瞳がゆっくりと閉じられて、身体を俺の方へ向けたゴールドが小さく頷いた。
「進もう、」
「何処に」
「前に」
眩い光にも恐れることなく徐々に開かれる眼には少しの躊躇も、恐怖も残っていない、それでも、辛いと、訴えてくるのは俺の心臓か、お前の感情なのか。
見たくないと、思った。
だからその腕を掴んで引き寄せて顔を俺の胸に押し付けた、抵抗されないように両腕で頭を抱えて、強く抱き締める。
身長はあまり変わらないので腰を辛そうに無理に屈めたゴールドが手で俺の身体を押す、それでも離すものか。
「シルちゃん」
「連れていく」
連れていく、俺が。
そうやって、細い吐息が言葉と共に落ちる、落ちたそれをお前の耳が、心が、指が、受け止めてくれればいい。
誰のためにお前は戦うのだろう、お前の意思と感情はちゃんと結ばれているのだろうか、分からない、解らない。
だから、涙がこぼれない世界に連れていく、知らない何処かにお前を連れていくから、握るその痛みを離したくない、だからもう、前を歩くな。
こんな苦しみは、最後にしよう。
1007 お前がそうしてくれたように。