どちらかともなくって訳じゃない。とりあえず視線が交わって絡んで外れないから、OK、始めようか。


リーチは長い方が便利なんて、まあ一応正論ではあるよ。突き出された棒の先端、いや切っ先でもいい、それが一切の躊躇いとか迷いとか微弱なズレとか躊躇とかを削いで俺の喉元を真っ直ぐ狙ってくるもんだから息を飲んだ、首を少し捻ってギリギリ回避したけど肌を微かに裂いていった、ぴりっとした痛みに冷や汗が出る。相手が小さく舌打ちをして棒、いや、キューだっけか、あのビリヤードに使う奴、まあそれを引っ込めたからそれに合わせて身体を後退させて距離を取った。
じりり、睨み合って腹の探り合い、金色の目が細められて地を蹴った、振り上げられたキューを見据えて右腕で防御。まあ、右腕くらい、捨ててやるよ。
ばきり、とあまりっていうか、かなり好ましくない痛々しい音がして歯を噛み締めた、激しく訴える痛覚を無視して左手を伸ばして相手の肩を掴む、ついでに足を引っ掻けてバランスを崩してやる。そうして成長過程の貧弱で脆弱なその身体を床に押し倒す、背中を硬い地面に打ち付けた衝撃でキューを握る手が緩む、取り上げて二メートル先ぐらいに放り投げた。後は抵抗してもらっちゃ困るので馬乗りになって両手首を抑えた。ここでやっと一息、深く呼吸をすればずきずきと熱を持った右腕が痛む、額に汗が浮かぶ、今回はやられたなあ、思わず苦笑が溢れた。押さえ込んだ相手、俺の後輩で、一応特殊な間柄であるゴールドを笑って見下ろせば涙で金色の瞳を揺らして、口を大きく開く、そのまま痛感と非難を共に込めて盛大に叫んだ。

「い……、っでぇえええ!!!このやろう!!」
「俺だってめちゃくちゃ痛いよ!!」
俺の右腕見るか!絶対赤くなってるからな!腫れてるかもしれない、骨は平気だろうけど数日後には青痰とご対面は確実に免れないだろう。
「レッド先輩のばーかばーか!」
「おまっ、低レベルな悪口だな!」
「くたばれトサカ!」
「はあ!?お前がくたばれ!鋭利な前髪しやがって!」
「なんだとテメェ!」
「やんのかゴールドお前!」
がちりと額同士をぶつけて怒鳴り合い、爆発した前髪してるくせに、俺に勝ったことないくせに、負け犬の遠吠えかばーかばーか!
「レッド先輩なんてだいっっっ、嫌いっす!」
「俺は好きだけどな!」
「えっ」
「あっ」
ごめん、ちょっと待った今の無し。いやいや間違えては無いんだけどね、根本的なタイミングを間違えたようで、うああああごめん今の無し!だからそんなに顔真っ赤にしないで!こっちが照れるから!

∴不器用な相対。

(あまりの恥ずかしさに頭突きかましたら膝で背中蹴られて最初に戻る、無限エンドレスからなかなか抜け出せないようだ!俺の馬鹿!)