向けられた目は、真っ直ぐな殺意を孕む、手を伸ばしたら食いちぎられそうな狂気に、何故か気分が高まるのを感じた。
「んん、別に、何もしないよ?」
「……触んな、」
身体を丸めて距離を取られた、貧相な肢体に大事そうに包まれるその球体は、こいつにとって、一番、大事なもの。
「何もしないって」
じりじりと遠ざかる、その内、背中は白く無機質な壁とぶつかる。立ち上がって覆い被さるように迫れば、壁と俺の間に閉じ込められたゴールドはただ身体を小さくした。頭の横に腕を付けて額を合わせて、視線を絡めた。
「ゴールドが抵抗しなければ、なにも」
しないよ、笑みを浮かべれば心底嫌そうに、睨まれて盛大な舌打ちをひとつ頂いた。
なるべく丁寧にこいつの宝物を奪って端に置いた、手持ちぶさたになった腕を退けて身体を密着させる。地面に落ちた指先が求めるかのように小さく震えた、ああ馬鹿だなあ、お前は俺を求めてれば、いいの。
殺意を突き付けられた、それを受け止めれば逸らされる。苛立ちを含んで目元に噛み付けば小さな悲鳴が上がる、俺を見ない眼球も、それに良く似たまあるいたまごだって、潰れちゃえばいいのに、な。

∴視線は俺を見ない。

(つまりは母親を取られた父親のように、あるいは好意を向けてもらえなかった、哀れな幼子のように、結局は、所有物を取られたくなった、単なる俺の我儘だったように。)