疲れた。
俺の背中に力無くゴールドは寄り掛かって、小さく呟いた。その声に何の感情も込もって無いもんだからボールを磨いていた手を休めて、首だけで振り返った。この位置ではゴールドの顔は見えない、跳ねた前髪をなんとなく見つめた。
「大丈夫?」
「ん」
「辛い?」
「ん」
「眠いか?」
「ん」
「…どうしたの?」
「ん」

あーあやっぱり、なあ、苦笑が零れた。
ゴールドは本当に、疲れたり嫌だったり苦しかったり、そういうことが合ったとして、疲れたとして、人と共有したがらない。それがゴールドの頑な性格からなのか、言う術を持たないのかは、俺には分からない。
ただ、疲れたら甘えてくれるから、分かりやすいなあとは思う。
せっかく、甘えてくれるなら、ぐずぐずの、とろとろになるくらい、甘やかせたくなる。頬を緩ませて、たくさんの言葉を放り投げる。

「ゴー、好きだよー」
「ん」
「一番大好きだよー」
「うん」
「世界で一番愛してるよー」
「うん」
「今度デートしよっか」
「うん」
「ゴー、女装でもする?」
「…んーん」
「好きだよー」
「うん」
「ちゅーしたい、それ以上のこともしたーい」

あ、やり過ぎたかな。
返事が返ってこない、頬を指先で掻いて視線を前に戻す。もぞりと背中でゴールドが身動ぎ、そして背中から体温が消える。
なっがーい、長い沈黙の後、後ろから細い腕がゆっくり回された。前で交差してすがり付くようにぎゅう、って抱き締める。俺のうなじにゴールドは顔を埋めて、首筋を吐息で擽りながら、背中を体温で暖めながら、俺の理性と欲望で荒れる脳内を犯しながら、返事を返す。
「…ちゅー以外は、また今度で」
欲望を理性が気合いで押し潰して耐える、絡まる腕を片方剥がして、その手の甲に口付けた。
ぐずぐずのとろとろに甘やかすつもりが俺がぐずぐずのとろとろにされそう、顔がにやける、照れくさい気持ちと愛しい感情と労りたい優しさが溢れる、それを一言に詰めて可愛いゴールドに捧げる。
「世界で一番、愛してるよー」
「…ん、俺も俺も」

∴散々、めいっぱい、骨抜きになるまで、たくさん甘やかしてね。