拒めよ。それがお前のためなんだと、俺は結論として、結果として、結末として。
確かに、残したから。

突き放すことは酷く簡単だ、たった一言、ただ一言を突き刺せば簡単に脆く深く抉れる。それまで積み重ねてきたものも全て無駄になって、たとえ抉れなくても切り傷さえ出来ればそれは疑心暗鬼を作り出し、じくじく膿んでぐちゃぐちゃな感情に変化、純粋な恋慕など何処にも存在しなくなる、ほら簡単だろ。
だからその胸を抉ってやろうって思った。

「だいきらい」
振り向いた顔を直視、視線を先に逸らしたのはゴールドだった。立ち止まったゴールドから距離を取った、一歩、二、三歩、細いあの手が届く位置には、居たくない。
「……なにが」
「ゴールド、が」
俺の手は届くけど、伸ばさない、ポケットに手を突っ込んで弱りそうな意思を隠した。震えるこの胸を、叱咤して、ただ吐き捨ててるだけの作業を、開始する。
「嫌い、」
「俺は好きっすよ」
「大嫌い、」
「大好きっす」
「世界で一番だいっきらい」
「世界で一番、先輩のこと、だいっすき」
へらりと緊張感も無く、傷付いた素振りも一切見せずにゴールドは笑った。ばか、なんで笑えるわけ、お前、俺に酷いこと言われんだよ、非難して、言い返して、拒絶しろよ、じゃないと。じゃないと。
「先輩が、俺を嫌うのは、自由っすけど」
俺が、先輩を好きな感情の自由は奪えないっすよ。

その権利は確かに俺には無いけど。だらりと弱った意思は震え、俺は顔を手で覆って、隠した。見たくないし見せたく無かった。
なんでそんな顔で笑うんだよ、ばかゴールド。
「先輩、」
「うっさい、ばか、ゴールドのばか、こっち見んな」
ぼろぼろと涙が溢れた、泣きたい訳じゃ無かった、突き放したかった、俺を拒絶して欲しかった。結論的にほんとは全部お前のためなんかじゃなく、傷付きたくない俺の自己防衛から来る我が儘だった。その結果、むしろ俺のためでも無かった、意味の無い行動だった、お前を拒むことすら、弱い俺には出来なかった、お前が俺の隣に居ない結末は、結末、は。

「俺、」
「はい」
「お前が居ないと、駄目っぽい」

結論も、結果も、結末も。
結局、お前が好きだって伝えれば簡単な事だった。馬鹿な俺に近付いて、泣き顔を隠す手の上にそっと手を重ねて、ゴールドは俺の告白を受け止めて、そうして静かに吐息を震わせて、優しく言った。

残したのは、お前への確かな感情だった。

∴だれかの残骸。