先輩と手を繋ぐことに躊躇いは無い、最初の頃は幼い恥ずかしさからポケットに手を突っ込んで阻止したり、何気なく離したりしていたが、それをする度にこの甘えたがりな先輩は、切なそうに笑うから、やめた。
「ゴーの手、つめてえ」
「冷え性なんすよ」
あんたが早く手を繋がないから、冷気に晒されたままの指先が冷えた、とかそんな砂を吐けそうなべったべたな事は言わない。つーかキャラじゃねーし。
「つめてーつめてー」
なら離せばいいのに、へらへらと笑うその顔を見ていると、毒気付いた台詞は胸中に引っ込んだ。
「……先輩、腹減ったっす」
「んー何か食べてこっか」
軽く手を引っ張られ道を曲がる、人の喧騒を掻き分けて前へ前へとするする進む。ちらちらと微妙に向けられる視線、露骨では無いが微弱なそれにも敏感になってしまう。きゅっと指先に力を入れて握れば、唐突に先輩は振り返った。
「ぶ」
「あ、悪い悪い」
対応出来ず、そのまま先輩の平らな胸に顔ダイブ、くそうダイブするならギャルの胸に飛び込みたかった、超切実な男の願望だった。
「なんすか」
「んん、そういえばって思って」
ゆっくり歩き始めた先輩の隣に並んで俺も歩調を緩める、そういえば、ってなんだ、まさか金置いてきたとかそんな。俺いま、金ねえ。
そうして、俺の的外れな予想の斜め上を当たり前に突っ切って、爆弾発言を先輩は落とした。

「幸せだなあって思ってさあ、」
こうやって大好きなゴールドと手繋いでデートって、凄いよね、幸せだよね。嬉しくて顔にやけてたらどうしよう、あそうそうゴールド大変、俺お金忘れた!

ばかだ、くっそはずかしい、このひと。

(幼稚な俺の照れ隠しすら、めちゃくちゃ意味無さすぎて。)

∴しあわせに、なろうねえ。