そう、だから、つまりは、さ。
「ゴーは残念ながら俺のものだったわけ」
かちゃり、フォークを皿に置いた、唇に付着したソースを舌で舐めてコップを手に取る。
目の前に座るゴールドはフォークを手に取ることも無く、ただ冷めていく食事を無表情で見下ろしていた。
「真実とかはさあ、呆気なく事実に塗り替えられていく訳。それがたとえ嘘で合っても、事実と誰かが、回りが、そう断定してしまえば、そうなるんだよ」
水分を補給、喉を潤してすらすらと淀みない口調でゴーの思考をひとつひとつ潰していく。

「……レッド、先輩は」
頭が良いんすね、口を開くのも億劫、だけど俺を牽制するための意味も無い言葉を放つ、それを笑って馬鹿にしてやった。
「ははっ、有り難う。ねえ、ゴールドもとっても頭が良いよねえ」
フォークを持ち直して、手を付けてない彼のパスタに突き立てた。「頭が良い、ゴールドのことだから」くるり、回して、パスタを巻き取って、ソースを絡め取って、くるくる手の内で回す。「きっと分かってると、思うけど」そのままフォークをゴールドの口許に寄せて、優しく、一言。

「食べろ」

お前に拒否権は無いよ、震える唇に尖ったフォークの先で軽く押してやれば、おそるおそる開いた唇。躊躇無く無理矢理押し込めば苦しそうに口に含んで、フォークを抜けば盛大に噎せた。
「ちゃんと飲み込めよ」
「う、っげほっ、」
爆発したような前髪を片手で掴んで、くるんと手の内でフォークを回して持ち方を変える。飲み込め、じゃなきゃ喉に突き刺す。ぴとりと肌に当てて、喉仏を柔く突く。屈辱を露にしながらそれでも、緩やかに喉を通過、生きるための源として、体内に吸収される。
「良く出来ました」
前髪を引っ張り、顔を近付けて唇に付いたソースを舌で舐める、フォークを持たせて、重ねた手を離した。「はい、良い子なゴールドだから、出来るよね?」
「……うっす」
かちゃり、小さく金属か擦れる音、ちらりと視線を向けたゴールドににこりと笑ってやれば怯えたように目線を落とした。
酷いなあ、まあ別に気にしてないけど。笑ったまま、生温い透明な液体が入ったコップを持ち上げる。
なあ、事実、事実上、実際に起こった、実在した出来事、ぜーんぶぜんぶ、真実で無くてはいけないって、誰が決めた?手を揺らしてコップの中の水を回す。俺はさ、例え真実じゃなくても真実味があるなら、それを事実と回りが断定したなら、それは全部全部ぜーんぶ、本当になるんだと思ってるよ。だからさ、それに。
お前の意思とか否定とか感情とか、いらないわけ。

そう、だから、つまりは、さ。
「ゴーは残念ながら俺のものになりました、ってこと」

手放すつもりとか一切無いから、安心して俺の手の内で良い子でいてね?

∴人刺し一匙の残虐。