いっそ俺を構成する全ての物質がお前みたいに綺麗だったら、良かったんだ。そうしたら優しい気持ちのまま、お前を愛せたのに。
どろ、どろり。
どろどろ、どろどろ、張り裂けた心臓から留めどなく溢れる感情が柔らかな吐息のように可愛らしい感情なら良かった、どろどろ、どろどろ、けれど失望の溜め息を吐き出したいくらい、その感情はさ、酷く重い塊だったからさ、俺は泣きたくなったんだ。
「ゴールド」
俺を見上げて眩しく笑うゴールドが好きだった、だった、じゃない、現在進行形で、大好きだった。
「先輩?」
ゴールドと向かい合って見詰め合えば照れ臭そうに唇をへにゃりと崩して、俺の名前を呼んだ。返事はしないで無機質な瞳でぱちりと瞬きをひとつ、乾いてきた眼球を粘膜で潤した。感情を浮かべないで何も言わない俺にゴールドは首を傾げた。
「どうしたんすか」
「しかたないんだ、」
脈絡は無い、それでも仕方無いんだ。
ゆるり、と躊躇いなく伸ばされた指先が俺の頬を滑って、頭の天辺に到達、そうしてすぐにぐしゃりと乱暴に撫でられた。ぱちりとまたひりひりと痛む目を労って瞬きをする、ゴールドも二回、瞬きをして、大きな瞳で俺を見上げた。
まあるい金色の瞳が、とても優しくて綺麗だった、から、震える臆病な指先に脳から伝達を届けるよ、するりとゴールドの首に絡めた腕に力を込めて抱き締めた。好きだから、仕方無いの、ばれたくないからしかたない。
ああもう、泣きそうだ。
当たり前のことのようにゴールドは俺の背中に腕を回して優しく擦り始めた、抵抗なんてしない、ただ受け入れるちいさな、かわいいこども。
細い体も、白い首も美しいままだ、どろどろり、ああ、流れていく、きたない感情が、心臓で内出血状態。俺だけのものにしたい、閉じ込めたい抉って削いで剥がして食して無くして切り取ってしまいたい全てすべて奪いたいお前の世界をすべて俺でうめつくしたい、俺と一生を誓ってほしい泣かせたい酷いことをしたい狂わせたい、ちがう、泣かせたくない泣いてほしくない笑ってほしい、優しくしたい、綺麗なまま、暖かい未来を、歩んでほしい、そう、出来れば―――…俺と、二人で、ずっと。
なんて。
どろりと湿った眼球から溢れた液体が俺の内面みたいに淀んで黒かったらどうしようか、俺の汚い感情のように、酷くおぞましいものだったらどうすればいいんだろうか。
よごしたく、ないよ。
どうか、どうかばれてしまいませんように。
汚い俺の恋情も、醜い俺の嫉妬も、危うい俺の欲望も、ぜんぶぜんぶ、無かったことにして、純粋なままお前を愛せたらいいのに。
けど、張り裂けた心臓と干からびることを否定した眼球からどろどろりと溢れ出る塊がお前の服もお前の存在も侵食するから、ああ、どうかお前は美しく優しいままで、
「ゴールド、すき」
0917/ただ、すきなだけなのに。