イライライラ、限界に達しようとしている憤りを理性で堪えながら耐えながら、俺はゆっくりと唇を開いた。それでも隠しきれない棘が言葉に含まれてしまい、切っ先を向けられた相手はびくりと震える。「脱げ」親指で上着を指して上へスライド、指示に従い、おそるおそる上着を掴んだ指先だったがそれから動こうともしない、なんて強情なんだ。「脱げってんだろ」「…嫌、っす」「嫌じゃねーよ」苛々、目尻を吊り上げて視線で犯すように睨めば怯えたように表情を歪める、だが金の瞳には困惑を混ぜてはいるが拒否を明らかに示していて、ああもうイライラする。
「じゃあもういい」
実力行使、立ち上がって上着を剥ごうと近寄ろうとしたら、「わ、わかりまし、たよ!」漸く肯定の返事を上げた、唇を噛んで目を俺から逸らしながらゆるゆると上着が捲られていく。指が拒絶を訴えるかのように微弱に震え、たっぷりと時間をかけて胸下まで晒された素肌を俺は直視、そうして盛大な舌打ちをした。
「おい、ゴールド」「…すみ、ません」「許さない」今さら謝ったっておせーんだよ、馬鹿、苛々する。脇腹に指を這わせて爪を立てる、じわりと垂れたそれに眉を寄せて抱えていた箱を開いて目当ての物を引っ張り出す。
がたん、手から滑った救急箱が床に落下した。

「許さないからな、ゴールド」
ガーゼを消毒液で湿らせて悲惨な傷口にべたりと当てた、俺の肩にしがみついたゴールドが小さな悲鳴を溢す。それを無視してぐりぐりと抉るように固まりかけた血液を拭った、がくりと身体の力を失ったゴールドの腰を抱えてそっと床に下ろす。
「う、あっ、ぃ…だ、!」
「痛くしてるから」
痛みに呻くゴールドに頷いた、いまだに俺の言葉には怒りが孕まれている、がりりと俺の頭を抱いたゴールドの爪が首を引っ掻く、煩わしいとは思わないけど、とりあえず今回のはお前の自業自得だからな。
血液を綺麗に拭いて、露になった傷口に新しいガーゼを取り出してテープで固定。最後にガーゼ越しに肌を優しく撫でてから、ぎゅう、ゴールドを強く抱き締めた。
「俺に言うことは?」
「…ん、と、ありがとう、ござい、ました」
「それもだけど、後は?」
汗ばんだ前髪をぐしゃりと掻き回して額に唇を落とした、ぽんぽんと背中を柔らかく叩けば目がそっと伏せられた。
なあ、ゴールド、お前が何をして、どんな自分の意思を貫いて、その行動に様々な物が添付したって、お前が確かな思考で決めたらなら、傷付いてもしょうがないんだろうなあって俺は思ってるけど、痛みを隠して俺の前で無理に笑うのはやめろ。凄く腹立つから、凄く泣きたくなるから、絶対に、やめろよ。ちゃんと痛いって、言え、馬鹿ゴールド。

「…レッド先輩」
「うん」
「ごめんね」
「次からは俺に、言えよ」
「うん、」

(次は許さないから覚悟しとけ。)
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0806:先輩、めんね。
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テーマ「人外ファンタジー」
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