あ、切れた。

咄嗟に口を両手で覆う、じわりと、いやこの場合ぶわりと口内に広がった鉄の味に眉を寄せる。舌で頬の内側を舐めればざりっとした違和感、あーあ裂けちゃったか、こくりと喉を鳴らして溜まった血液を飲んだ。美味しくなかった。

「……どうしたの、」
「んん」
不意に立ち止まって口を抑えた僕に疑問を抱いたレッドさんが、同じように足を止め、訝しげに首を傾げて僕を見詰めた。答えを返せないもどかしさに小さく唸る、だって痛いんだもん、口動かすと切れたとこすごい痛いんだもん。
「切れた?」
「ん」
返答、僕が頷けばレッドさんの目が微かに丸く開かれる。そうして何故か、口を抑える僕の手を剥がして、頬を両手で優しく挟んで。
親指で唇を抉じ開け、無理矢理口を開かされた。

「いっ、ふあ、っ!?」

いたいたいたたたた!!
口を大きく開いた拍子に裂けた内頬が刺すように痛んだ、涙腺が刺激されて涙が目尻に浮かぶ。
じろじろ。何時も気だるそうに伏せられた目が、僕の口内を食い入るように見てる、なんですか本当になんですか、痛いですレッドさん。
「……、痛い?」
「いたひいたひっ!」
間髪入れずに訴えればレッドさんが笑った。
えっ、笑っ、た?

上唇に噛み付かれて悲鳴を上げて胸を押したけど背中に移動した手が僕の自由を奪う、とうとう堪えてた涙が零れた。弄ぶように僕を蹂躙する舌先に不満を吐き出す口は開かない、開けない。痛みは増すばかりだ、ああもう!

レッドさんの、ばか!


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0730∵痛覚を食せ。
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テーマ「人外ファンタジー」
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