幸せになってねと俺が微笑んだら彼女はとっても柔らかく笑いながらお礼を返して身を翻す、振り向かないその背中に泣いてしまうかと思った。その場にしゃがみこんで目頭を指で抑えた、唇を一直線に引いてずずりと鼻を鳴らす、笑顔で見送れて良かった、なけなしのプライドだけど、泣いたら、みっともないもんなあ。

「あーあ、奪っちゃえば良かったんすよ」
「……、ゴールド」
かつりと踵を鳴らして、気だるそうな声色でぽつりと投げられた言葉は背後から。首を捻って確認すれば生意気そうに俺を見下ろす後輩の姿が。お前なんでいるんだよ。
「欲しいなら奪う。それがじょーしきっしょ?」
「幸せに、なって欲しかったんだよ」
「好きだったんすか?」
「好きだよ、だけど」

恋慕じゃない。

「俺以外で、幸せになって欲しかった、んだよ」
「変なの。じゃあなんで泣いてんの」
「……可能性を、失った、からかな」
「可能性?」
「俺を好きになってくれる、可能性」
可能性って言うか、俺を無条件でひたすら好きだと思ってくれる存在、それを手放したからかな、多分。
「いっみわかんね」
「うん、知ってる」
俺は欲張りでさあ、そんでこわがりだからさ、誰かに嫌われるのがこわくてこわくてしょうがないんだ、だから俺に好意を寄せてくれる存在が酷く愛しくてしょうがない、同じ感情は返せないかもだけど。その好きは、俺を確立させて固定する要素だから、それを無くしたことにただ嘆いてるんだ。
「先輩ちょういみわかんね」
「うん、知ってる」
「泣きそうっすよ」
「うん、知ってる」

ゴールドが複雑そうに顔を歪めてゆっくりと距離を縮めた、そうして両手を俺の頭に乗せ、ぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。手加減が一切無い激しいその行為に頭がぐらぐらと揺れて目のふちに溜まったままの涙が何滴か零れる。
「グリーン先輩にも、イエロー先輩にも、幸せになって欲しいから、泣くんだろ」
「うん、知ってる」
「レッド先輩って案外優しいっすよね」
「うん、知ってる」
「ナルシスト」
「うん、知ってる」
「まあまあ、先輩には俺が居るじゃないっすか」

「……うん、知ってる」


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0729∵空白を埋める要素は君でしたか。
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