元は美味しそうで綺麗な形だった筈の、俺にぶちまけられた手作りのワンホールショートケーキ。
床に押し倒されて上着を剥がされシャツを捲られて、振り下ろされたそれをどう避けろと言うんだ。べちゃりと良い音がしましたよ、ええ、そりゃあもう。
どろりと、体温で溶けた生クリームが服に染みる、隙間から侵入して肌を滑る、べたついた感触、すべて、全部、酷く不愉快、抗議の声を上げようとしたら指ごと口の中に異物を突っ込まれる。
「ん、むぐぐぐ…」
ぐるりと指が口内で一回転、塗られるように指を押し付けて口の中に広がった甘ったるい味。案外普通に美味い、と味わっていると指を抜かれそのまま唇を押し当てられた。性急な舌が甘さを求めるように深く深く絡んでいく、呼吸の苦しさに肩を押したが頭をがっしり掴まれ意味を為さない。
「ふっ、んぎ!」
鼻から息を吸おうとしたら舌を噛まれる、くぐもった悲鳴が喉の奥で消えた。それにこいつは鼻で笑って漸く唇を離した。

「な、にすん、だよっ」
酸素を大きく吸い込んで睨み付ける、こいつは、先輩に敬うと言う言葉が、尊重と言う意味が、欠陥した後輩であるはずのルビーは、答えずにただ綺麗に笑う。顔を苺のように赤く染めて潤んだ瞳で俺を見下ろす、微かに息が荒い、熱を含んだ紅の瞳に、背筋がぞくりと震えた。
「ゴールドさん、」
両手首を床に縫い付けるように握って、腰を屈めたルビーは歯を見せて俺の肌を噛むように食んだ。咀嚼のように歯を動かす、柔らかく噛まれ、ぬるりとした舌先が肌を舐め、擽ったさに震える息を吐き出した。
「美味しいです、ゴールドさんあっまい」
「…さいでっか。あのですね、離して頂けるとすげえ嬉しいんだが、どうよ」
「聞こえません」
「おまっ、…うぁ!」
がりりと胸の飾りに爪を立てて、肌を引っ掻くように、クリームを掬うように指を一線に動かす。指先に絡んで付着したそれを自らの口に運んで舌で舐めとって、人差し指を唇の前で立て、ルビーは微笑んだ。

「とろとろになるくらい舐めて噛んで食べて味わったら、ゴールドさんはどんな甘い表情をするんでしょうねえ」
「知るか」
「楽しみだなあ、胸焼けしたら責任取って下さいね。ちゃーんと僕の甘い愛を混ぜるんでご安心を?」
「知るか、あほんだら」
「つれない人、まあ砂糖菓子のような声で言われてもなーんにも感じませんけどかわいいなあ」
「変態爆発しろ」
「もっと言って下さっていいんですよ?」
駄目だ、こいつの両耳にはケーキの下地であるスポンジがぎゅうぎゅうに詰まってる、お手上げ。
「いただきます」
「……あー、はいはいどうぞ召し上がれってーんだ…」
とりあえず抵抗は諦めた、敵いそうにねーし。しょうがねえから甘党ルビーの甘い愛でもいただこうと思う、仕方ないから。
腹壊せば良いのに、もしくは虫歯になれ。

砂糖菓子=砂糖餓死?
(甘味が無くなったら死んでしまうから!もっともっと君を味わっていたいの!)
---
原材料は砂糖のみ。
- ナノ -