じりじりと、焼ける音を聞いた。

せんぱい、俺を呼ぶ声が遠い、遠退く感覚にすがり付くように俺は目を薄く開けた。
ぼやける視界に赤が広がった、赤、朱、緋、紅、アカ、あか、どれも違う、どれもこの声が放つ色では無い。もっと違う、あかいろじゃない、こいつの、いろは。

焼ける、熱い、熔けそう、だ。
意識を手放すことが、こわい。そしたら俺を呼ぶこいつの色を、一生思い出せない気がする、いやだ、いやだなあ。
あか、あお、みどり。
違う、そんな単色な色では無い、きいろ?あ、なんか違う、でも近い、よう、な。
のまれちゃだめ、っす、せんぱい、せんぱい、あかにのまれちゃだめだ。
拙いぼろぼろな言葉が振動して俺に伝わる、でも、じりじりと痛むんだ、傷むんだよ、なあ、俺が焼けてしまったらお前は悼んでくれる?
せんぱい、
視界が真っ赤に染まる、そいつの色を思い出せずに、俺はじりじりと自らが焼ける音を聞いていた。

▼ きみがやけおちたやけあとにすがりつくおれ。

(あか、あお、みどり、きいろ…)


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遺体は焼くもの、だ。

しかしこれを遺体と表現し形容するには、些か疑問が生じるのでは無いだろうか。文字って変化させるならば異体、ああ、それならば何処か納得出来る。これは純粋な遺体では無く、禍々しい、異体だ。
焼失、失う、焼けて、消えてくもの。

しかしこの人は、消えていい、存在では無い。
たくさんの思想の中、指定するのは、確定して、断定した、固定的な思考。
赤は広がりすぎたのだ、彼はオリジナルではない、元々は偽造で模造品なレプリカ。しかし、彼は彼で新たな物語を記して築いて来たのは、確かだ、覆せない決定的な事実。けれど、彼が彼で存在し続けるのは、難しい、他の赤に飲まれてしまう、焼けてしまう。赤は金色や緑と違い、原点だから限定されたら、削られ弾かれてしまう、それだけは、阻止を、阻止をしなくては。

せんぱい、せんぱい、起きて。
ゆるりと瞼が震えた、細く開いた目は何処か遠い、瞳の赤は濁ったように光沢を失っていた。
せんぱい、
声は響かない、やがてその瞳が閉じられ、た。俺は自らが焼けることもい問わず手を差し伸べ、否、手でその人を掴んだ。
おい、ばか、起きろよせんぱい!
俺が見たいのはこの焼けた色の赤でも無いし濁った赤でも無い、俺がたったひとつ、望む赤は。

あんたが放つ、綺麗な赤だ。

▼ きみがやけおちたやけあとにすがりつくおれ。

(引き上げて、火傷は怖くない、怖いのは赤に飲まれそうな、あんた。)


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俺の概念はそこには存在しない、出来ない。
はじまり、と言うのは期待を含んでいると思っていた、輝かしい、新しい、はじめの、けれどそれらは俺には無駄だったのだろうか。赤、俺の色、名付けなれた俺の、もの。しかし、それは勘違いだったのだ、勘違いも腹正しいくらいの勘違い、境界線を越えれば俺は鏡越しに映る反射にしかすぎなかった。嘆く、ことはしない、ああ、そういうものか、と俺は仕方無く笑った。そうして俺という概念は途切れて逝く、元々はか細い糸に繋がっていただけの俺の存在、いずれ皆忘れていくもの、飽きては置いていくもの、俺は俺ではいられなかったのだ。
さよなら、と俺は俺を焼いた。

じりじりと痛む音を聞いた。
誰かが俺に叫んでいた、が俺はそいつを思い出せずに焼け落ちる、ふと、たくさんの記憶、過る色のなか、引っ掛かるなにか。
きらきら、きらきら、きらきら!
外面では無く内面が焼ける音、胸が焦がされる、やめろ、傷む、悼む、痛い、遺体、異体、いたい、

居たい。


おれはここにいたいよ、おもいだしたい。
鮮明に溢れる、たくさんの追想、追憶、すべて、すべてすべてお前が、いるのに俺がいないなんて、そんなの、そんなの。


引っ張られる、感覚、記憶に?自分に?誰かに?目を開ければ広がるのは目にいたいほどの、

▼ きみがやけおちたやけあとにすがりつくおれ。

(駄目に決まってるだろ)


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