なんかもう自分のこと良く分かんなくなってきた。

ずるりと足を滑らせ、背から落ちていく。曇った灰色空を視界いっぱいに捉えて俺は笑った、あの人もこうして落ちていったのかな。
寒い、辛い哀しい苦しい痛い。
レッドさんもこんな気持ちだったんだろうか、あの人が君臨していた頂点はこんなにも虚しかった。無口で無表情だったあの人が、何を思っていたかなんて分からないけど。
あの人は切り立った崖の上に極寒の吹雪の中、半袖でぼんやりと立っていた。見た瞬間、鳥肌もんだった。いやだって普通に考えてこの吹雪の中半袖って、眼球から来る苛めかと思ったし、幽霊じゃないかと真剣に考えた。見なかったふりして立ち去ろうとしたが彼の肩に乗っていたピカチュウが鳴いて、無言でバトルが開始された。
後にも先にもでんきショックが横を掠めたのはこれ一回かぎりだと思う、つーか願う。
苦戦の中、最後に立っていたのは俺の相棒であるバクフーンで。彼は帽子の鍔を下げて、表情を見せずに俺にレジェントリボンを投げた。咄嗟だったので上手く受けとれずに落とした、拾い上げて見たその先に。
レッドさんは、居なかった。
最初から存在しなかったかのように、姿を消していた。否定するように、足跡だけはぽつりと残っていたが歩いた痕跡は無く、彼は消えた。日を改めてまたこの場所にやってきたが、彼は居なかった。
ぐちゃぐちゃした感情だけが残って、虚しくなった。
冒頭に戻ろうか、嫌だな、なんかもう自分のこと良く分かんなくなってきた。
つまり結局は俺は崖から落下してるわけだ、別に死にたいわけじゃない。俺の右手には空を飛べるトゲキッスが入ったボールが握られているし、まだやり残したことだってある。ただ。
ただ、なんか、もう。
「良く分からないなあ…」
風で掻き消されたその台詞に、俺は涙を溢した。風は寒いし、胸は辛いし、無性に哀しいし、呼吸は苦しいし、痛いし。痛い、痛いんだってば。
「俺は君がこうしてる理由が良く分からないんだけど」
重力に従い、落下してた身体に息が詰まるような強い衝撃。
落ちていくのを抗い、身体は上へと上へと上昇する、咳き込んでいた俺は脳内が完全に思考停止していて何が起きたかなんて理解出来なかった。
「レッドさ…、」
レッドさんに抱き抱えられていた、お姫様だっこで。
吃驚して情けない声を上げた、あれレッドさん生きてる、帽子かぶってないしピカチュウ居ないけどレッドさんだよねこの人。
リザードンの背に足でしがみつきながら俺を受け止めた張本人であるレッドさんは眉に紫波を寄せて俺を、睨んだ。
「お前のせいで、胃とか痛い」
「すいませ、ん」
そりゃあ勢い良く落下してる人間受け止めれば痛いですよね、こうなった原因多分レッドさんのせいなんだけど助けて貰ったからには謝るしかない。
「死にたかったの?」
ならこの手離すけど、淡々と言われたその言葉にゾッとして思わずレッドさんの首に腕を回した。右手に握られたボールを見たレッドさんが、俺の耳元で息を吐いた。
「…お前、何がしたかったの」
「いや、はあ、あの…なんかもう自分のこと良く分かんなくて」
ただ、ぐちゃぐちゃしてて…あれ?
なんだ、あれ、なんか、スッキリしたというか、スッキリはしたんだけど逆に苦しいというか痛いわけじゃないんだけど、あれ?
地面にリザードンが着地する前に投げ捨てられた、顔から雪にダイブした。身体を起こして空を見上げた、曇り空から除く青空が綺麗で俺は笑った。
レッドさんのピカチュウが彼の帽子を被っていた、涙を流しながらちゃあちゃあ鳴いてレッドさんの胸に飛び込んだ。
ああなんかもう良く分からないけど多分良かった、一粒だけ涙を溢して俺はまた笑った。

…そういえばレッドさんって喋れるんだなあ。









(要らん捕捉はレッドさんは崖から落ちた訳じゃなくてリザードンに乗って即ポケセン行ったんだと思われる、ゴールドは焦ったからとりあえずアイテムで回復させて家まで帰っちゃったからすれ違うことも無かった感じ。んでレッドさんが野暮用つーか負けた報告しにグリーンに会ってる間にゴールド来て、戻ってきたらなんか足跡が崖で消えてて焦ったレッドさんはピカチュウ肩からずり落ちんのも帽子風で飛ばされるのも気付かず崖から飛び降りてリザードン出して急降下して涙でぼやけてレッドさん見えないゴールドを全身で受け止めたってことだと思われる。そして長編予定でしたこれ実は。)
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