まあ、やっとか。

シルバーは一人溜め息を吐いた、長かった、ひたすら長かったように思う。
シルバーの知り合い…友であるゴールドとは、なんと言うか、ストレートな癖に、めちゃくちゃ不器用な奴だった。笑ってるくせにもやもやしながら何が面白いか分からない、と困ったように笑う奴だった。素直に感情が出てこない、出そうとして頑張った挙げ句、あべこべな正反対の感情、屈折した感情を出す奴だった。
しかもバレバレなそれを必死に隠そうとするのだ、デリケートな内面を理解していた俺達は対応に悩みながらもゴールドを傷付けないよう、接していた。
ある日、先輩であるレッドと言う男に合わせた。
ゴールドがぶちぎれた。
良く出来た道化だなあ、と笑って遠慮無く言い放った先輩に若干の清々しさと多少の腹正しさを感じながら口を開きゴールドの弁解をしようとしたら、ゴールドが拳を振り上げて殴りかかったのだ。
クリスも俺も驚いて、そうして少し安心した。
ゴールドの初めての素直な感情は暴力、だったが漸く感情と同じ表情をするゴールドを見れたのだ、クリスは慌てながらお赤飯とか言い出した、一応、とりあえず制止しといた。

まあそれからの二人の関係は、第三者からは結構、複雑だったのだが。なんと言うか、言葉で攻めて攻められて拳で殴って殴られて足で蹴って蹴られて殺伐としたバイオレンスな関係だった、何度血を見たことか。
レッド先輩の考えは最後まであまり分からなかったが、ゴールドに興味が沸いたことは分かる。当たり前の事を素直に受け止められなかった純粋なゴールド、側に居れば愛着は沸く、優しさを無性で注ぎたくなるような幼子のような愛らしさと言えばいいのか。…男、さらに友達相手にそれを言ったら鳥肌ものだが。
「長かった、」
とある早朝、緊急の電話が鳴った。レッド先輩からで、今すぐ死にかけたゴールドを引き取りに来い、と。ぼろぼろに傷付いて包帯を巻かれて眠るゴールドを見た瞬間、とうとうレッド先輩が殺しかけたのかと睨んだ。あり得る想定内の事態だったからだ、しかし飄々とした態度、真相は掴めず、とりあえずゴールドを病院へ運んだ。
結果、ただのゴールドの失態だった。
苛立ち、呑気に眠るゴールドの喉に手刀を下ろした。
それから傷は直ぐに塞がり、包帯や絆創膏だらけだったが普段振り回すキューの代わりだーとか言い、松葉杖を付いて元気一杯に退院した。そう言えばあいつのキュー見掛けなかったな、無くしたのだろうか。
「……長かった、な」
同じ言葉を何度も噛み締めるように言う、何も変わってないようにも思えるが、確かに変わったのだ。
あの二人の暴力的な関係は、何一つ変わっていないのだが。
そう困ったことにあの二人の暴力はヒートアップしていた、何故か前より悪化していた、何故だ。最終的に両方共病院で運ばれたのはつい先程の事だ、しかも見付けたのは俺だった、お前ら、俺を巻き込むな。
さらに話を聞けばどっちが男役かを揉めて口論になりゴールドを力で押し倒したレッド先輩の急所をゴールドが蹴ったので、そうして殴り合い、病院送りに。ナチュラルに説明された交際発言よりも、ただこいつらは馬鹿か、と呆れて巻き込まれた苛立たしさから再び口論を始めかけた二人の頭を掴み、勢い良くお互いの額をぶつけてやった。病人は黙って床に沈め、そう吐き捨てて気絶した二人を置いてきた。

話が逸れたが、確かにゴールドが変わったのだ。
例えば前みたいに困ったようにゴールドが笑えばレッド先輩が笑顔で殴る、怒りに震え殴り返す、苦しそうにレッド先輩が呻けばゴールドはきっと心から嘲笑うだろうし、やり返されれば痛そうな哀しい顔を多分する、そうして繰り返し病院送りになれば可笑しそうに笑う、一緒に病院送りになったレッド先輩に優しく接して貰えば照れたような困った顔をするだろうし、それが当たり前になったゴールドは、変わった、変えられた、レッド先輩に。
暴力的な関係は変わらなくとも、それが数ある最善の中のゴールドが望んだ最適な答えなのだから、きっとあいつは、あいつらは幸せそうにこれからも殴り続けるのだろう。

さて、クリスがお赤飯を炊いているだろうから、俺も向かおう、どうやら姉さん達も来るらしいし。
お前達は、殴り愛でもしてればいいさ。


くたばらないバイオレンス!

こうして変わらずしぶとく生きてます。
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