ばっちーん。

容赦無い全力の平手打ちを目の前のこの人に放つ、一歩ふらつきながら何故か驚いた顔で俺を見下ろす。
「…えーっ、と?」
「これでチャラにしてやりますよ」
「ええ?」
「てめえ俺の介抱してる時、なんかしやがったよな」
「………うーん」
なんだその空白は、ほんとにやりやがったのかよ、二発三発四発五発位殴られたんだったら平手じゃなくて拳でやっとけば良かった勿体ねえ。殺意を含んだ目で見上げれば、困ったように赤くなった頬を指で掻いた。
「それで、死にかけた死にたがりだったゴールドの答えは?」
「直球っすね」
ひりひりと痛む手を握って開いて痛みを誤魔化す、痛み、痛いのは怖いし辛いし熱いし苦しいし哀しいから嫌だ、なあ。
「頬、痛かったすか?」
「え、ああ、うん」
さっきからこの人動揺しすぎだろ、何だか面白くて笑ってしまった。また、目を丸くして驚いた顔をする。
「俺、痛いのは嫌っす」「うん」「腹裂かれた時、すげー熱くて痛くて苦しかった、殴られた時には哀しくも怖くも辛くも無かったのに、死にそうになったときすげーいっぱいごちゃごちゃになって、生きたいって思いました」「うん」「あんたより、先に、くたばりたく無かったんです」「うん、そっか」
反発しあう心は近寄れない筈だった、相容れない感情、笑われた道化の俺、ばれて恥ずかしくて悔しくて何とかしようと思った、でも何も出来なかった。この人は俺を理解した上で破壊をしようとしなかった、けど救済って訳でもない、敢えて言うなら放置の上の干渉。「俺を殺したかったですか」「うん、前までの馬鹿馬鹿しい道化のゴールドは殺したかった、けど殺意は無かったよ」「…そっすか」
熱に浮かされながら痛みに襲われ、死にかけた俺は生きたいと強く思って願った。
「俺、楽しくないくせに楽しいってふりして強がって、もしそれがばれたらどうしようって怖がりな臆病者でした」
「うん、知ってた。でもそれって人として当たり前の事じゃん、生きてくのって恥ずかしいから道化を被るんだろ。それを当たり前だと気付けて良かったな、長かったけど」
くしゃりと頭を撫でられた、初めてのその行為に狼狽えたがどうすることも出来ないのでただそれを受け入れた。
「顔真っ赤」
「うっせ」
反発しあう心は近寄れない筈だった、磁石の同じ軸を近付けても意味は無い、けれど片方を引っくり返せば引き寄せられてしまう、漸く俺が、ゴールドとしての俺が、返された、帰された、孵された。
「レッド先輩」
違和感を覚える名前を口にした、名前を呼ばれた本人も何処か歯痒そうに擽ったそうに「なに?」と小さく笑った。
なあ、重ねて纏めて束ねてみたんだけど結局は多分こういうことなんだよ、酷く簡単な物騒で、けれど真っ直ぐな感情を込めた言葉を紡いだ。
「あんたに殺されるのは嫌だから、俺がいつかあんたを殺すから、それまで俺はくたばりません」
そうして可笑しそうに、けれど優しく笑って、暴力的なこの人は言う。
「俺もお前には殺されたくないから、お前をいつか殺すけど、それまでくたばんなよ」
多分、これは愛では無いのだろう、殺意とも違うけれど、でも多分、それに似ている。暴力で相手を捩じ伏せて制圧したがる俺達、似た者同士と言えばいいのか、けど、きっとさあ。確証何て何処にも無いけど、自信だって、断定だって出来ないけど。痛む身体が、あんたに助けられた身体と、救われた内面がさ、熱を訴えるから、もう一回言うけど、確証何て何処にも無いんだけど、暴力的な俺は笑って、その一言を伝えた。

「俺、多分、あんたのこと、好きっすよ」


くたばれバイオレンス

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