移り変わることなく、それがあの日のすべてだった。



そう、約束とは片方が忘れてしまえば呆気なく脆く無効になってしまうものだった、グリーンは目を伏せて立ち上がる。
唇で紡いで言葉で誓い指先で契る、幼い日にはそれで充分だと思った、それで伝わると考えた、それで永遠的に続くと信じた。けれど。
けれど、実際は、こんなにもあっさりと、忘れてしまった自分。

ジム内に設置された移動パネルに乗った、挑戦者を戸惑い迷わせ、思考力を試す特殊なパネルはぐるぐると回る、まわるめぐる、ぐるぐる。

永遠とは、遥かなる永久に、永続的に繋がれるものでは、無かった。現在の現実、現状を見返せば当たり前、極々致し方無い事でもあった、優しい忘却、易しい記憶の放棄、ああ、でも、あいつ、は。

「グリーンさん!」
慣れてなければ酔いそうなぐるぐる回る廻る終着点、淀みない足でパネルから降りれば、ジムの重い扉を開けてヒビキが顔を覗かせていた。
「…よーう」
片手を上げてへらりと降って見せれば顔を緩ませて駆け寄ってきた、そうして「こんにちはーっ!グリーンさん、お小遣い稼ぎに来ましたよー!」不穏な空気を滲ませ、ボールを取り出して、言った。「おいこら、俺今日ナーバスなんだぜ」少し落胆、と言うよりまたか、と呆れながらそのボールを見せ付ける手を払う。「ナーバス!じゃあぼこすこにしちゃいますね!」てめえ、最近酷いなおい!
「僕、最近多分また強くなりましたよ!」
へへ、と頬を掻いて照れ臭そうに喋る、ヒビキは強い、無鉄砲だから、では無くて、確かな意志を意思を遺志を継いで、譲れないものがあったからだと、前に聞いた。譲れないもの、今の俺に、譲れない、捨てれないもの、護りたいもの。

「――ヒビキは、約束を忘れて、破ったらどうする?」
答えなんか、求めてる訳じゃないけれど、素朴な疑問。先日俺の目の前でコトネと指を絡ませて交わした約束、それのことだろうかと首を傾げて、少しだけ考えて、そうしてヒビキはゆっくりと唇を開いた。
「謝って、それでまた、約束します」

口元を抑えた、しかし腹の底から込み上げる笑いは抑えきれず、思い切り声を上げて笑った。ははっ、なんだよ、なんだ、簡単なことだったよ、やっぱさ、そんなもんだよ。

あいつの背中は変わらず、あいつは約束を破らず、あいつは俺を待っていたんだよ、馬鹿馬鹿しい話だけど、あの日の約束はあいつの中では、確かな永遠だったんだ。だから、俺はさ。
「な、ナーバスの余りとうとう…!」
「とうとうってなんだこら」
失礼な事を抜かすヒビキの頭を叩く、痛みに悲鳴と避難の声を上げる。それをスルーしてジムの扉を開けた、晴天、こいつとのバトルには最高の晴れ晴れしい日だ。唇を歪ませて笑えば引き吊る頬、ああそういえば頬殴られたっけ。

なあ、もうちょっとだけさ、そこで待ってろよ。
三年何て言わないさ、昼寝でもしてればあっという間だろ、約束、護りに行くからさ。

移り変わるものはあるけれど、変わらないものがある、それがこの日の晴天に相応しい言葉だと思った。


千切れかけた約束と、契った指先

おれたちはずっとえいえんのらいばるだからな!やくそくだからな!

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