あつい、いたい、くるしい、よ。

道化を見破られた時、俺は怖くて怖くてしょうがなかったんだと思う。だって人が必死こいて隠して来た弱味を握られたんだぜ、そりゃあ相手を何とかしようと普通思うだろ。俺の場合は力で屈服させようと考えた、だけど相手が相手だった、相性がとことん悪かった。まじほんと無いわ、ってくらい、超悪かった。
俺、あんたがくたばってくたばってくたばってくれりゃあ何もいらねえ、かもしんない。そう吐き捨てた回数は数え切れないほど、それほどまでにとことん、ものすごぐ、めちゃくちゃ、すっげえまじでほんと超大嫌いだった。だったじゃねえや、現在進行形で宜しく頼む。

身体が疲労や痛みを訴えて、俺は深い眠りに落ちた。目覚ましは荒々しい雄叫び、睡眠から浮上すれば暗闇に生える相棒の背中の綺麗な炎、けれど、照らされた状況はあまり芳しくは、無かった。
(…リングマが、四、五頭…六…か?)
ちょっと俺ピーンチ、笑えない、荷物を手繰り寄せて肩に担ぐ、体制を正して息を吐いた。
(満身創痍、だな…ちっくしょう…何この状況で寝てんだ、俺)
その原因が過って腹正しくなった、思考の転換、目を細めて逃げ道を探す。
「―――バクたろう、煙幕!」
バクたろうの咆哮、リングマ達の唸り声、指示を飛ばす俺の叫び声。一体のリングマが近寄り、爪を高く降り翳す、避けろは喧騒に掻き消されたが、バクたろうが一歩下がり身体を使った捨て身の体当たり。ああ、くそ、ぼろぼろなのに悪いな相棒。じりじりと焼けて焦げるような匂い、一拍の間を置いて爆発的に広がる黒い煙。素早くゴーグルを下げ目を防御、そうして腰のボールを取り出し傷だらけな相棒をボール内に退避。
スケボーを出す暇なんて無い、直ぐ様立ち上がり寄り掛かっていた木の裏側に回り、走り出した。がさがさと草むらを掻き分けてただただ逃走、灯りで合った炎が途絶え、暗闇に慣れない目はぼんやりとしか形を捉えずに木の枝や葉が身体に擦れる。
「っ、と!」
ぐらり、と足元が崩れる。咄嗟に側に合った枝に捕まる、…崖、だ。ばくばくと心臓が悲鳴を上げる、一歩下がり多少呼吸を整えて方向転換。くる、り。

唸り声。
ぐるるる、ぐるり。

腹の底からぶるぶる震えるような獰猛な唸り、振り返ろうとすればぐらりと歪む足場、空気を切り裂くようにそれは反射して、降り下ろされた。痛みは、無かったように感じた、そうして、 ぐるり。



暗転。





















ゆら、ゆら。

ゆらゆらと、気持ち悪い。揺さぶられるような、安定しない、漂うような、力が入らない、ゆらゆら、ぐらぐら。
きもちわる、い。
息を吸いたくて口を開いた、震えて薄く開かれた唇からは酸素が中々取り込めない。
は、息を吸った瞬間、口内に侵入する、異物。ざらりと舌にそれが掠り、痛い、喉まで到達した、違和感に思い切り咳き込んだ。呆気なくそれは口内から出ていったが不快感は拭えないまま、ああきもちわるい。
起きてこんなことをした最低な奴をぶんなぐってやりたい…あれ、目が開かない?ってか、なんか、あつい、つーか…いたい?なんで、だ。
腹辺りがむず痒い、と思いきや針が突き刺さるような痛み、「、は」熱に震え、息が乱れる。じわじわと触れられている場所から熱が広がる、痛みを訴え、背中にじんわりと嫌な汗が浮かぶ。
突如、

「―――っ、ぁ、あ、う」
いたいいたいいたいいてえくそいてえまじいてえいてえいたいいたいいたいあついいたいいたい!
刺された抉られた殴られた違うどれも違う焼けるようだ!
痛みに身体の機能が無理矢理活動、びくびくと痛みに激しく震える、息が出来ない、呼吸、酸素、空気を!口を開こうとしたら重い瞼が開いた、滲む視界、なにも見えない。
「…ぁ、」
ちょうくるしい。
「    、」
声が多分聞こえた、けれどわからない、虚ろな視界に残った微かな光は影に遮られた、口を塞がれる感覚、やめろ、くるしいんだよ息出来ないだろ、しぬってば、がちりと歯に硬いものが当たる、ぬるりと生暖かいものが口内を荒らす、痛感、舌、いたい、やな味する。

しにたくない、とさけぶ。
そうして俺は気付いて理解してしまったのだ、死の縁にようやく立たされていつ死んでもいい、だなんて戯れ言だった、どうしよう、いま、無性に生きたい、どうしても、生きたい、しにたくない。


死にたくないと、熱に浮かされた俺が、心から叫んだ日。

あいつより、先にくたばってたまるか。
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