ふらふら、ゆらゆらと、何処にも行くな。

「ありーん、グリーン先輩だ」
「…ゴールドか、」
どんよりとした曇り空、湿気を含んだ空気をからからと笑い飛ばすように、ふらりとそいつはトキワに現れた。
「どうした?」
「んん?いやあ、トキワの森に遊びに来ただけっすよ」
「遊びって、お前は…」
空を見上げる、…今にも降り出しそうなのに、か。目線を合わせればにこりと笑って軽く会釈、そんじゃあ、何て言って背中を向けた。
「っ、おい、待て」
フードを掴んで引き寄せた、その際に首が絞まったのか苦しそうに呻いた。「うぐ、なんすか…?」「どう見ても雨降るだろう」「へえ、まあ、降りますねえ」飄々と、掴み所が無い笑顔で、へらへらと緩んだ口調で肯定、何故降ると分かってるのにわざわざ行くんだこいつは、理解出来ない。
「何しに行くんだ、俺も行く」
「はあ?何言ってやがるんすか、あんた」
別にただの散歩だっつーの、グリーン先輩過保護な親父みたいっすねえ。
フードを引っ張り、崩れた服を整えた。ぽつり、とその小さな肩に水滴が落ちた。滴が落ちた空を見上げてゴールドは面白そうに可笑しそうに、小さく笑った。雨を喜ぶ子供のように瞳が輝く、視線を俺に戻して別れの挨拶を呟く。
「雨降って来ちゃったんで俺行きますね、そんじゃ」
…だから、言葉に意味性が感じられないんだと、良い加減気付け。
翻ったフードをまた掴んだ、振り向いたゴールドの口元に噛み付く。文句は塞がれた唇からは紡がれない、そうして抵抗される前にその貧弱な身体を抱えて肩に担いだ。
「う、わ!?な、なにするん、すかっ!」
「舌を噛む、喋るな騒がしい落とすぞ」
「…マジ何ですかあんた」
はあああ、どんよりした雲空にも負けないくらいに淀んだ溜め息が聞こえた。聞こえないフリをして雨が本降りにならない内にと思い、早足でジムへと向かった。

ふらふら、ゆらゆらと、何処にも行くな。
ここにいろ

「………何か面白いことしたら許してあげますよ」
「無茶言うな」

(君は僕の手元に手中に居なきゃ!)
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