誰かのためでは無かった、あの時、確かに自分のためだけに全てを犠牲にした。

選ばれた、などと戯言を紡ぐな、俺自体が、選ばれて良い存在な訳無いだろ。透明感溢れる鈴を手放した、からからと優しげで哀しげな音を響かせて床に転がる。
こんなもの、だったのだ。
あの人が求めて求めて止まなかった、輝きは、くすんで濁った俺が手を伸ばした時点で全て終止符へと緩やかに向かっていた。そう、それは残念ながら、止めるべき手段など無く、ただようやく気付いた時には手遅れだっただけで、そう。
それだけ の、はなし だ。

「ホウオウは、俺を選ばない」
それが御前の選択か、燃えるように猛々しく荒々しい瞳が、真っ直ぐに俺を見下ろした。
そうだよ。これが俺の唯一の最善の選択だった、弱虫な俺が傷付かないための、卑怯で狡い選択だ。
なあ、何でお前はこんな俺を選んだんだよ、俺じゃなくて、さ。もっと良い人がお前には居るんだよ。

わたしには御前しかいなかった。
何処か甘えたように小さく鳴いた、紅葉のような、鮮やかなその頬に触れて、俺は微笑んだ。
有り難う、過去形で、有り難う、選んでくれて、御免な、選べなくて。
ぬくもりはあたたかく、じんわりと俺の胸を締め付けた。お前の幸せは、ここにあったの、?
御前がわたしに会いに来てくれた、それだけでわたしは救われたのだ。
優しいことを、言う。
その頭を抱き締めて顔を擦り付けて一粒だけ涙をこぼした、救われたのは、俺だよ。

虹色の羽を別れを惜しむようにゆっくりと開く、夕日の中、きらきらと朱色を孕ませ含ませ滲ませ、幻想的に神と奉られ詠われたポケモンは、神々しく偉大に、力強く羽ばたく。
「ホウオウ、」
その名前を呼ぶ、空気を震動させて、お前に伝わればいい。
この景色を、あのぬくもりを、その犠牲を、俺はちゃんと背負うから、だから。

(お前は誰のものにもならないで、あの人の憧れでいて。)
誰かのためでは無かった、あの時、確かに自分のためだけに全てを犠牲にした。

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