mono | ナノ


11/12/31 11:50

小さな頃は長くて大きな椅子に座るのが怖かった。しかもその理由はなんとも些細で意味も無く、ただの感覚だけで捉える子供らしい理由だった、未発達な体躯では足が地に着かず、それが不安定な内心と相似して揺らぐのが怖かった、揺らいでいるのだと気付かれたくは無かった。
席に座った際に身動ぎをせず正しい姿勢で何かを堪えるようにひたすら畏まっていた、大人になりきらない自分がこの立派な玉座に座ってはならないのだと思った、情けない両の足は半端な位置でゆらゆらと宙に弄ばれている、足りない、なにもかもが足りない。

足りない。



「アリババくん、」

思考の海に沈んだ意識を引っ張りあげた、ごぽりと気泡が弾けたような音が聞こえたような気がして、小さく笑った。

「ただいま、戻りましたよ」

沈んでいたのは意識だけでは無い、あの頃の未発達な少年の身体は年月を積み重ねて青年へと成長して変化した。年相応の体躯は真っ白なシーツに溺れて思考と同じように沈んでいた。
蕩けた思想は正確な形を成さないが、胸にはわだかまり、として残されたまま。

「ごめんね、遅くなって」
優しい子守唄のように囁かれる声に無性にすがりつきたくなって、指を伸ばして自分を除き込んできた頭を胸に引き寄せ、抱きしめた。

「アリババくん、」

胸元でふごふごと蠢くような酸素を逃したくなかった、やがて諦めたような小さな溜め息がしたから少し腕を緩めた。そうしたら脇に腕を通されて剥がされた。
嫌だ、と情けない言葉を、駄々を上げる前にベッドに腰掛けたジャーファルさんの、膝上に座らされた。


普段の正常な思考が働いていれば、多分恥ずかしくてジャーファルさんの背中に両腕を回すとかしないんだろうな、と思う。額を彼の首にぐりぐりと押し付けてようやく安堵の息を吐いた、向かい合った状態でぐずぐずと甘えてへばりつく俺に仕方なさそうに、それでも何処か嬉しそうに弾んだ声が優しく耳を叩く。


「まだまだ子供ですねえ」

うん、うん。

うん、満ち足りた、気分だ。



∴君の定位置。

ちょっとかなりよくわかんない内容。