赤い糸の終着点 5

僕の言いたいことが分からないわけじゃないでしょ?

そう思いながら一歩一歩繭子に近づいていく。
予想していなかったのか繭子はこの雰囲気に後ずさって行った。


「僕は他人の前ではまず寝ないし……必要以上に他人に触れない。いくら鈍感でも、僕がしてきたことを思い返したら……それがどういうことかわかるでしょ?」


鈍感だからこそ…僕は大胆なこともしてきたつもりだ。
繭子に気づいてほしくて…僕の気持ちを分かってほしくて…。

とうとう繭子は窓に背中を当てた。
それに困惑しながら目をキョロキョロさせている。



最初は行く気のなかった流星群。
でも二人で流星群を見に行ったのだって繭子が一緒だったから。
少しでも繭子の中に僕の存在があってほしいと思ったんだ…。


「流星群にかけた願い教えてあげようか?」


僕の言葉に顔を上に向けた繭子。
数秒考えた後、戸惑いながらも口を開いた。

「でも……それを言ったら、効果が……。」


吸い込まれそうな大きな瞳を見つめてあの満天の星空を思い出していた。
流れ星に何度も何度も願った事。


「関係ない。叶えるのは君だから。」


永遠なんてない…そんなこと知ってる。
でも願うだけなら…良いのかもと思えた。
繭子と出会って変わっていく自分。
怖くなんてない……むしろ喜びだったんだ。

君となら変わっていきたい。


「……僕とこれからも一緒にいて。」


その言葉にジッと見つめてくる繭子。
驚いてるような…困っているような…。
もしかしたら無防備で危機感がなく鈍感な彼女だ…こういう事を予想できていなかったのかもしれない。

「何黙ってるの?……最後まで言わなきゃわからない?」

僕は素直にそうなのかもしれないと思った。
今まで彼女と過ごしてきた日々を思えばこれが彼女の普通。

戸惑いながら視線をそらそうとした彼女に僕は覗き込むようにして目を合わせた。
ここから逃がすなんてする訳ないでしょ、そう思いながら。
ジッと見つめる繭子に心の中で小さくため息をついた。
やはり彼女にはちゃんと言わないとわかってもらえないのか…。




「……好きだよ。もう、君に出会う前の自分が思い出せないくらいに。」




ここまで来るのにどれだけの時間を費やしてきたのだろう…。
彼女に出会って恵人に面倒押し付けられたと思っていたあの頃。
あれは本当に自分だったのだろうか…と心配になってくる。
気が付けばいつも彼女が僕の隣にいてそれが当たり前になっていて…。
いないと思っただけで不安になっている自分。
もう君無しでは生きていけなくなったみたいだ。

目に涙を溜めた繭子は何も言わない。
小さく震えている唇。
その唇で語る言葉は何…?


気が付けば待ちきれずに繭子をさらに追い詰めていた。
彼女の背中に広がる窓に自分の手をついて挟み込む。
戸惑う繭子も涙を溜めてる大きな瞳も可愛くて…震えている唇に魅了される僕。


「返事は?待つのって好きじゃないから。」


僕の言葉に震えている唇を一度キュッと閉じた。



「私も……棗先輩が大好きです……。」


小さく開いて出てきた言葉に僕の心臓は破裂しそうだった。
これ以上…待てない。
これは全部全部繭子のせいなんだからね。

窓に付いていた手をゆっくりと曲げて繭子に近づく。

「あの、学校なので、ここでは……。」

視線を逸らして小さな両手で僕の胸のあたりを押す繭子。
そんな可愛い抵抗して…顔を真っ赤にして目は潤んでて…どれだけ我慢させれば気が済むの?
繭子の一つ一つに僕の心も体も熱くなっていく。

心の中で一言“無理”と囁いてゆっくりと繭子の両手を掴み窓に縫い付ける。


「却下。どれだけ我慢したと思ってるの?」


本当に…無防備過ぎて何度も手を出しそうになってたって言うのに…。
想いが通じた今も駄目だなんて言わせない。

ギュッと目をつむった繭子を見て小さく微笑んだ僕は固く閉じられたそれに自分のを重ねた。
柔らかくて甘い繭子の唇に僕は簡単に酔ってしまう。

外で花火が上がった事よりも繭子のことの方が気になって仕方がない。
色とりどりの光を背に浴びながら逆光で暗く見える繭子が魅力的で愛しく思える。

ダメだ…一度我慢が切れると…。

何度でも欲しくなってしまう。


「……何その顔。可愛すぎるでしょ。」


耳元で囁いて貪るように唇を合わせた。
ずっと願っていた。
彼女の隣を歩く権利、たったそれだけが欲しかったんだ。

聞こえてくる繭子の甘い声。
それだけで僕の頭は麻酔をかけたみたいにぼーっとしてしまう。


「やっと捕まえたんだ……もう、離さないから。」


そう…やっと手に入れた。
もう僕のもの…誰にもくれてなんてやらない…。

僕は抱きしめてもう一度囁いた。



「繭子…好きだよ。」







赤い糸の終着点




(……私も…ですよ。)
(ちゃんと言って…)
(ぅ…もう恥ずかしいです…)
(駄目、言って)
(…好きです!)
(……誰のことが?)
(〜〜〜ッ!?///)


(棗先輩のことが好きです……)


手繰り寄せた赤い糸…終着点はキミ…


End.


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