赤い糸の終着点 4
本当に…繭子はバカだね。
あんな事言われて最後まで我慢なんてできないでしょ。
それだけ言うと大人しくなった繭子を引っ張って校舎の中に入って行った。
今からなら花火の時間も重なって校舎には誰も居らず、みんな中庭や校庭に出ていた。
それに今の時間は校舎立ち入り禁止。
入れるのは教師と生徒会とGフェスだけ。
教室に入ればさっきよりもオレンジがダークブルーに飲み込まれて暗さが増していた。
いつもと違ってガランと広い教室に繭子を入れて扉を閉める。
「たぶん、ここからなら花火もよく見えると思うから。」
「はい……。」
そのまま手を離せば繭子は窓際に立って校庭を眺めている。
僕は少しだけ離れて机の上に腰を浅くかけた。
いざ、想いを告げようとここに連れてきたのはいいけど…何から話せばいいのか分からなくなる。
告白なんてした事なかったし…。
人間なんて不思議なものだ。
僕は何度か告白された事はあった。自慢でも何でもなく事実。
その時は早く終わらないのか、と考えていたものだけど…逆の立場になると気持ちが痛いほどわかる。
何も言えなくなってしまう。
何度も頭の中で繭子を呼んでは喉に痞えて全く出てこなくなる。
こんなにも言葉を出すのは難しかっただろうか…。
妙に時間だけが過ぎていくような気がして、気まずさも大きくなっていくようだった。
「……………。」
「……先輩?」
この沈黙を破ったのは繭子だった。
そう、僕も告白された時は何も言い出さない相手に痺れを切らして話しかける事が多かった。
きっと繭子もあの時の僕と同じ気持ちなのだろう。
窓の外から僕に視線を変えた繭子。
見なくても感じ取れた。
情けないほどに緊張している自分を落ち着かせるために大きく一度息を吐いた。
「ごめん……自分から連れてきておいて……いざとなると、どこから話し始めればいいのか…混乱してる。」
話しているうちにだんだん顔が熱くなる。
きっとこの距離でこの暗さなら繭子には気が付かれていないと思うけど…。
僕はもう一度だけ深呼吸して少しだけ離れた所に立っている繭子に顔を向けた。
「あのね。」
「はい……。」
「君はそんなに特別なことだとも思ってないと思うけど……僕は他人のために走ったりしないし、人のペースに合わせるのも苦手なんだ。」
緊張交じりの僕の声は静かな教室に妙に響いた。
僕は他人のことなんて考えもしないし…ましてやその人がどう思おうが関係ないと思っていた。
「必死になる事もないし、いつも余裕を持って行動するようにしてた。」
そうさっきだってそうだった。
繭子の言葉で余裕もなくなってしまう。
「……そうですね。」
僕の言葉に繭子は何か思い当たる事があったらしい。
小さく相槌を打ちながら聞いてくれた。
「……なのに、繭子といると調子が狂ってばっかりだ。」
そう何もかも…狂わされて振り回されて…でも僕は…
「ご、ごめんなさい……。」
繭子は自分が責められてると思ったのか焦って頭を下げた。
その彼女らしい行動に緊張は少しだけ和らいだ気がした。
僕は繭子に首を振って見せた。
「……こういう自分は知らなかったんだ。最初は君に世話を焼いてるつもりでいたんだけど……危なっかしくてほっとけないのに、そばにいると安心できてる自分に気が付いた。」
繭子は小さく驚きの声を上げた。
「安心……ですか?」
それに僕は頷いた。
机から腰を上げて窓際に立っている彼女の元にゆっくりと歩き出す。
その音に繭子は小さく肩を震わせた。
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