Sweet Strawberry

「はあ…」

深いため息をつく。
今日はいっちゃんと久々のデートだったのに…風邪を引くなんて…

(さっきメールしたけど返事がこない…怒ってるのかな…)

ベッドの中で横になり、携帯を握りしめる。
熱で体がだるいのに、いっちゃんのことを考えると心まで苦しくなり自然と涙が
こぼれてくる。

(いっちゃんごめんね…)

するとトントンと部屋のドアがノックされる。

(わ、マスターだ!)
あわてて涙を拭い、起き上がって「どうぞ?」と声をかけると、入ってきたのは
いっちゃんだった。

(………!!!)

いっちゃんは不機嫌そうな顔でベッドまで近づくと、床にドカッと腰を下ろす。

ちょっとした沈黙も苦しい…たまらず声をかける。
「あの…」
「お前バカじゃねーの?」
(う…)
間髪入れずに返されて何も言えない。

「せっかく久しぶりに2人だけで出かけられるって日に…」
「…ごめんなさい」
ああ、やっぱり怒っていた…再び涙があふれてきそうになった。だけど…

「これ食って早く元気になれよ」
「え?」
いっちゃんが私の目の前に苺を差し出す。

「店にあったヤツだけど」
ちょっと照れているのか、いっちゃんはそういうと顔を逸らしてしまった。

「ありがとう」
私はいっちゃんの優しさが嬉しくて、ついに泣きだしてしまった。

「うわ…なんで泣くんだよ」
「だって…いっちゃん、絶対怒っていると思ったから…」
「そんなに心狭くねーよ」
いっちゃんそう呟くと、何かを考えるようにして苺を一粒摘まむ。

そしていっちゃんは再び私のほうを向くと、ちょっとだけ意地悪そうにほほ笑ん
だ。
だけどその表情はいつもより大人っぽく見えて…
(あれ?)
一気に顔に熱が集まるのがわかった。

いっちゃんも私の顔がさらに赤くなったのがわかったのか、口角がさらに上がっ
たように見えた。

「ほら」
いっちゃんはそういって私の口もとへ苺を差し出してくる。

ドギマギしながら私がその苺を手で受け取ろうとすると、さらに苺を唇に触れる
距離までグイっと近づけてくる。

(え?これって…「あーん」ってこと?)

目線だけ上にあげて、いっちゃんの顔をチラっと見ると、優しい瞳でほほ笑んで
いて…

恥ずかしかったけど口を開けて苺にかじりついた。

かじった瞬間から苺の果汁が口からこぼれてしまう。
あわてて手で押さえようとしたら、その手をいっちゃんに掴まれた。

(うわ!垂れちゃう!!)
そう思ったとき、温かな感触が顎先に伝わる。

手を掴まれた瞬間に、またいつもの意地悪をされたと思っていた私は、それがい
ったい何の感触なのかわからなかった。

そしてそれは唇の端まで滑るように移っていき…
優しく唇に重ねられた。

熱で思考が上手く回らない中、ようやくキスをしているということに気づき、慌
てていっちゃんの体を押し返す。

「ダメだよ!風邪がうつっちゃうよ!」

いっちゃんは真っ赤になって抵抗する私にお構いなしに再び唇を重ねてくる。

「いいじゃん。そしたら今度はお前がこうやって看病してくれんだろ?」
「し、しないよ!!」

だけど重ねられた唇を、もう拒むことは出来ない。
身体中が別の熱で浮かされていくのを感じながら、苺の味がするキスを繰り返す
のだった。


end.


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