いつだって

彼女と俺が付き合うようになっても、一護はまだ、恋をしていた。

それは端から見てもわかりやすいもので、たまに俺を出し抜こうとするような行動もある。
当の彼女本人は、それに気付いてはいない。
俺と付き合うようになってから、一護は自分を諦めたものだと思っている。
今でも自分が狙われてるとは知らずに。

『幼なじみなんだし、いいだろ』

これが一護の武器。

鈍い彼女を含め、幼なじみは結構厄介だ。



休日のクロフネ。
相変わらずの固定客ばかりというか、奥のテーブル席には俺と彼女と一護を除くいつものメンバーが、何をするでもなく集まっていた。

カウンターには、自然と俺の隣に座ってくれた彼女と、その隣に何食わぬ顔で座る一護。
彼女の目の前には、一護が新作だと言って持ってきたケーキ。
嬉しそうに食べる彼女の横で、それを微笑ましく見つめていたのは、俺だけじゃなかった。

「………」
「………」

一護と目が合う。
何も言わずに俺を見つめ(たぶん睨んで)、ふっと視線をそらし、彼女に向かって小さく口を開けた。

それを見て、固まる。

「…何してんの、一護」
「ひとくち」

甘いものが嫌いなくせに。
それは「食べさせろ」のサイン。

「え、あの…」
困ったように俺に視線を送ってくる彼女に少しの安堵を覚えながら、一護に意見をしようと口を開く。

「ちょっと、いち」
「幼なじみなんだし、いいだろ」

有無を言わさず武器を振りかざす一護。
それを言われると何も返せなくなるのは、彼女だけじゃなく俺も一緒だ。

一護は大事な幼なじみ。
彼女にとってもそれは同じで。
彼女も俺には大切な幼なじみだけど。

…今は、それだけじゃないのに。

「じゃあ、はい」
悩んでいる間に、聞こえた彼女の返事。
返事というよりかは、何かを差し出したような言い方。
拒否ではなく、肯定。

「…え」
「…え」

一護の呟きに、俺の声が重なる。
彼女が一護に差し出していたのは、ケーキを小さく取ったティースプーン。
しかも柄の方を差し出していた。

「…んだよ、これ」
「だって、一護くん甘いの苦手でしょ?」
だから、と彼女なりの気遣いで、自分のフォークに刺さった欠片では大きいと思い、小さく取り直したらしい。
無邪気な笑顔に押し切られ、一護は渋々といった感じでスプーンを受け取る。
てっきり食べさせるんだと思った俺は、なんだか気が抜けて、思いっきり大きなため息をついた。

「どうしたの、ハルくん」
「……」
「ううん、なんでも」
そう言ってから一護に視線を向ければ、一護は納得いかないというような顔で、ケーキを口に含む。
いっそう眉間に皺を寄せ、「…甘い」と一言残し、リュウ兄たちのいる席へと移動していった。


「それなら食べなきゃいいのに」
「…そうだね」
やっぱりわかっていない彼女は、また一口とケーキを口に運ぶ。
鈍い彼女のお陰で難を逃れられた安心感と、本当に美味しそうに食べる彼女の笑顔を見て、自然と頬が緩んだ。
「…美味しい?」
「うん!ハルくんも食べる?」
そのままフォークでケーキを取る。

あ、そうか。
俺は別に甘いものが嫌いってわけじゃないし、少ない量じゃなくていいのか。

そう納得してフォークを受け取ろうと右手を出しかけた瞬間、目の前に差し出されたのはケーキの欠片。

「…え…?」
「はい、あーん」
「え、あ…は、はい」

素直にパクリと食いつけば、嬉しそうに彼女は微笑む。

あれ…
俺、いま…?

口の中いっぱいに広がる甘さを感じつつ彼女を見ると、今さら頬を真っ赤に染めていた。
自分の頬も熱い。

…どうして、俺だけ。
一護にはしなかったことを、俺にだけ。

それって、俺が。

「…ハルくんは、特別だから」
「え…」
「一護くんも大切な幼なじみだけど…でもやっぱり、ハルくんとは違うの」

小さく紡がれる言葉に、ぎゅっと胸が締めつけられる。

「ハルくんは…か、彼氏、だから…特別」

そっと握られた小指から、熱が全身に回っていくみたいだ。

ああもう。
そうやって、俺が嬉しくなるようなことを言ってくれるから。
もっと好きにさせられるから。

わがまま、言いたくなるじゃないか。

「…今度からも」
「うん…?」
「俺以外には、こういうことしないで」

彼女が持っているフォークを緩やかに奪い取り、残ったケーキを掬ってから、それを彼女の口元へと運んでいく。
つん、と唇をノックすれば、真っ赤に染まった顔の彼女の口はすんなりと開いた。

「これも、俺以外にさせないで」

わがままでごめん、と呟くと、彼女は俺の手をきゅっと握り直す。
見つめた先には、優しい笑顔。

「…ハルくんだけだよ」

私もわがままだね、と彼女は嬉しそうに笑った。




いつだって、

俺にだけ、ね?




end


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ね?ね?(何
ハルくんもいっちゃんもヒロインちゃんも3人ともかわいくないですか??

遠慮しないで自分の気持ちを言葉にしたハルくん、
大人だけど更に可愛いらしさプラスのいっちゃん、
鈍いけどしっかり自分をもってるヒロインちゃん、

理想のハルくんルートぉぉぉぉ(絶叫)

小道具にいっちゃんの新作ケーキを持ってきたところでも相当悶えたのですが、
最後のハルくんの”つん、と唇をノック”に撃沈しました。
ハルくんやりそーっ きゃーっ

いっちゃんが口あけてまってるところとかすごくイメージが浮かびます。
かかか可愛いすぎる・・・

ハルさん、素敵なお話を本当にありがとうございました!


ハルさんの素敵サイト「君が、いたから」


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[mokuji]



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