密やかな宣戦布告 3

幸人の考えてる事はよくわからない時がある。
それは何度も思ってきたし、実際にそういう場面を何度も見てきた。
口数の少ない彼は本当に掴みどころがない。

ヤカンを手に持ってゆっくりとお湯を注いでいく。
途端立ち込める湯気とコーヒーのいい匂いが広がる。


「彼女と一緒に会計をやってるんだろ?」


そんな言葉に気が付いて幸人の方に顔を上げれば空になったらしいマグカップを持ってこちらに歩いて来るのが見えた。


「そうだね。それが?」

「いや、彼女は見た感じはあんなだがどうなんだろうと思っただけだ。」


幸人はキッチンに入るとシンクに立ち、水で軽くマグカップを濯いでいた。
そんな様子をチラリと見てまたお湯をゆっくりと注ぐ。
キュッと水を止める音がして今度はスポンジに洗剤を付けていく。
しかも大量に…。

やっぱりわからない…。

「繭子は人一倍頑張り屋だと思うけどね…。」

「……繭子…か。」


自分から質問してきたくせに気になったのはその答えではなく呼び方の方だった。
適量までお湯を入れて僕はやっと重たいヤカンをコンロに置いた。


「何?」

「特に意味はない。」

「そう。」

「棗が他人を褒めるのも珍しいな…。」


さっきから何故か嫌な感じで心臓が鳴っている。
幸人の言葉一つ一つに裏の意味があるような気がして…。
無表情に近い幸人からは読み取るのは不可能に近い。


「褒めてるわけじゃない…思っただけ。」


「そうか。繭子…少しだけ興味があるな。」


ザーッと大量の泡が付いたマグカップを水で流してそう言った幸人の顔は相変わらずの無表情なのに…




宣戦布告をされたみたいに思えて仕方がなかった。





ねえ…幸人も繭子が好きだったの?






密かな宣戦布告


(幸人…)
(なんだ)
(……なんでもない)
(………多分思っている事は棗と同じだ)
(っ!)

幸人からの宣戦布告
これからどうするかな…


End.




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