▼ あの日の約束を今
【あの日の約束を今】
「うわあ…懐かしい…」
「……」
「ほら、これなんか幼稚園の入園式の時のだよ!何年前のだコレ…」
「……」
(どうしてこうなった…)
風魔家の地下室、小さな図書館のようなその部屋で、なまえと風魔はアルバムを見ていた。
事の発端は、先程の夕食の席での「風魔がなまえのことを好きだ」という暴露話だ。
そこから話は発展して行き、何故か昔のアルバムを二人で見る羽目になっていた。
「なまえ…」
「うっわー!!運動会の時のだー!誰だよ、借り物競争で"隣の席の子"って借り物考えたの…!!お陰で小太郎におんぶされて校庭一周する事に…」
「なまえ……」
「あー!やっぱり撮られてる!!恥ずかしい…!」
「なまえ………」
「おっ!こっちは…」
「いい加減にしろ」
「ヒィッ!スミマセンッ!」
何度呼びかけても無視するなまえに痺れを切らし、風魔はなまえが手に持っていたアルバムを取り上げた。
「なまえ…」
「な、なんでしょう…?」
「これ…」
そう言って風魔が差し出したのは、一枚の写真。
少しセピアがかったそれには、小さい頃の風魔となまえが写っていた。
「約束…覚えてる?」
「お、覚えて…マス」
写真の中の二人は、幸せそうなとびきりの笑顔で何かを交換している。
ゴソゴソとなまえが制服のポケットをまさぐり、見るからに古そうなお守り袋を取り出した。
「小太郎こそ、覚えていてくれたんだ…」
そう言うと、なまえはお守り袋を開けた。
中から出てきたのは、ビニール袋に入れられた、小さな四つ葉のクローバー。
「小太郎もまだ持ってたんだ…」
いつの間にか、風魔の手の上にもなまえと同じように、四つ葉のクローバーが乗っていた。
写真の中で二人が交換しているのは、今し方取り出した四つ葉のクローバーだ。
「四つ葉が欲しい!」というなまえの一言がきっかけで、二人で公園に行き、日がくれるまで探した四つ葉のクローバー。
交換すると同時に、とある約束もした。
その約束を、今…
「あ、あのですね!私も小太郎の
事が…す、好きなのでっ!それに、無くさずに四つ葉も持ってるし!!
つ、付き合ってくださいっ!」
なまえがそう言って四つ葉を差し出した。
そして、それを受け取り微笑む風魔。
微笑んで、自分の持っていた四つ葉をなまえに渡した。
「約束は、
『大人になった時に二人とも四つ葉を無くさずに持っていたら結婚する』
だった」
四つ葉を見ながらしみじみと風魔が呟くと…
「結婚はまだ早いと思う!」
なまえはただでさえ赤い顔を更に真っ赤にして反論した。
それに、二人して笑う。
あの頃の自分達は何て馬鹿だったんだろう、と。
あの頃の自分達は何て純粋だったんだろう、と。
「なまえ、四つ葉の花言葉を知っているか?」
パリパリに乾燥している色あせた四つ葉をビニール越しに弄りながら、風魔が尋ねた。
「幸せ…とかそんな感じの?」
「Be Mine」
「Be…Mine…?」
「私のものになって、私を思ってください。さすれば、富も名声も、健やかなる日々も深い愛情も、私があなたに与えましょう」
「……へ?」
「恋人から始めよう。高校を卒業して、大学に入って、社会人になって…
それでも気持ちが変わらなければ、その時は…今度こそ俺と結婚して欲しい」
「……!!っはい!!」
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