一ヶ月記念 | ナノ


▼ ゼロセンチ

【埋めようのないゼロセンチ】

近いようで遠い。
遠いようで近い。
そんな恋愛小説にありきたりな比喩表現が出来ない程に、風魔小太郎と名字なまえの距離は近かった。
例えるとすれば、限りなく零に近い壱とでも言ったところか。

それ故、

「なまえ、今週は家に泊まれって」

「あー…今日からお父さんもお母さんも海外出張か……。
お世話になります」

「いや、お互い様だ。気にするな」

それ故、意中の相手が自宅で一週間暮らすなどという、絶好の告白の機会を生かすことが出来ないのだ。
何故か。
理由は簡単だ。
互いの距離が近すぎるのだ。
告白する事により、今まで限りなく零に近かった距離が離れるのは、我慢がならない。
ならば、距離が縮むのではなく伸びるのならば、告白せずにこの位置で満足している方が得策ではないのだろうか。
これが、風魔の考えだった。

「帰りにスーパー寄って来いって」

「了解。今日の晩ご飯何かなー?」

「メールに献立が書いてあるが、見る?」

「いや!いつも通り、買い物の内容で当てる!!」

「ん、了解」

そう言って、風魔は今まで見ていた携帯を閉じ、ズボンのポケットへ突っ込んだ。
いつも通り、となまえは言った。
お気づきの通り、彼女が風魔の家に泊まるのは、今回が初めてではない。
共に大学の教授という忙しい両親を持つなまえは、彼らが海外出張や長期に出かける際には必ず、風魔宅に預けられている。
それもこれも、風魔の母となまえの母とが中学生以来の大親友だからだ。
幸い、風魔の父もなまえの事を自分の娘のように思っているので、彼女のせいで家族仲や夫婦仲が悪くなる事は全くない。

すぐ隣にいるあなた。
いつも側にいるあなた。
手を伸ばせば、伸ばさなくても届く距離にいるあなた。
元々の距離が零ならば、どのようにしてこの間を埋めればいいのでしょうか。
そんな悲痛な誰かの声が、聞こえた気がした。


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