一ヶ月記念 | ナノ


▼ もう始まっていた

【もう恋は始まっていた】

幼馴染が見知らぬ男子生徒に告白されていた。
そんな光景に、廊下で偶然出くわしたとしても、風魔小太郎は特に何も思わなかった。
なまえはただの幼馴染なのだから。

だから今、
「名字さん!俺とお付き合いして下さい」
なんてありきたりな台詞を言う男子生徒と、それに赤面するなまえをこの目で見ても、何か思うはずがない。
そう、
思うはずはないのだが…

「…不愉快だ」

風魔は何故か不快感をおぼえた。
廊下の突き当たり、風魔から教室1つ分離れた場所で、赤面する男子生徒となまえを見つめる。

男子生徒は、確かサッカー部のエースで、顔はイケメン、そして爽やかな性格から男女共に人気がある、ちょっとした有名人だ。

なまえは、生徒会の副会長で、勉強も運動もそれなりに出来る。
綺麗というよりは可愛い女の子で、その可愛い顔に似合わず男前な所があり、男子生徒と同じように男女共に人気がある。

人気者の男子生徒が、同じく人気者のなまえに告白し、なまえは顔を赤く染めている。

「実は、名字さんが生徒会の仕事で取材に来てくれた時に、一目惚れしたんだ…」

「あ、ありがとう…」

その姿を見て、風魔はさらに不快感をおぼえる。
なまえが告白されている所を見たことが、今までに無い訳ではない。
むしろ、結構頻繁に見てきた。
告白され、
「ごめん、そういうの興味ないんだ」
と言う決まり文句で、告白した男子を奈落の底へ突き落とすなまえの姿を。


風魔は見つめる。
今までとは違う態度の彼女の姿を。

「あ、あのね…」

そう言って、なまえは顔を更に赤くする。
それを見て、風魔の不快感が更に強くなる。

(何なんだこの不快感は)

そう思いながら、風魔は耳をすまし、二人を凝視する。

「あのね、嬉しいんだけど、私には好きな人がいるの…だから、ごめんなさい…」

「そっか…。謝らなくていいよ。
これからも友達でいてくれる?」

「うん。本当にごめんなさい」

その会話を聞いて、風魔は妙な気分になった。
嬉しいようで、悲しい。
不快なようで、心地いい。
そんな奇妙な気持ち。

風魔は己の気持ちを冷静に考える。
そして、一つの結論を導き出した。

(これは、恋というものでは無いのだろうか)

そう、恋だ。
高校生の青春の一ページを染める、甘酸っぱい恋。
「その恋が成就しようと、成就しなかろうと、恋心を抱くことに意味がある」
と現国の先生が力説していたのを、風魔は思い出した。

(成就しようと、しなかろうと…か)

目をつむり、脳裏になまえの姿を思い浮かべる。
物心がつく前から一緒に過ごして来た、隣の家に住む幼馴染。
幼稚園も小学校も中学校も高校も同じ。
登下校も常に一緒。
夏休みはどちらかの家に集まり宴会をする、家族ぐるみのお付き合い。
思えば、最近なまえの一挙一動酷く気になっていた。
彼女に微笑まれると、心臓の鼓動が速くなる。
彼女が悲しい顔をすると、こちらの気分も悲しくなる。

(これが恋なのか…)

妙に納得して、風魔はいつの間にか一人になっていたなまえへ近付いた。

「なまえ、帰ろう」

「こ、小太郎!?」

ぽん、と肩を叩き喋りかけただけで、なまえは驚いて肩をびくりと跳ね上げる。

「何故、そんなに驚く」

その言葉に、

「え、いや、何でもない!
それより、早く帰ろう!今日の夕飯はカレーなんだって!」

となまえは笑顔で何かを誤魔化すように答え、風魔の手をとり廊下を駆け出した。




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