▼ 誘っているように見えたので
【誘っているように見えたので、つい】
『明智先生ー!お昼ごはん食べましょー!』
「はい」
明智先生とお付き合いを始めて、はや一ヶ月。
最初こそ、「教師と生徒で付き合ってるなんて知られたら、退学にされるかもしれない」と怯えていたが、気付いたら学校全体に私たちが付き合っている事が伝わっており、友人や同級生には
「何か変なことされたら迷わず警察へ電話するんだよ」
と言われ、先生方には
「あんな奴だけど、見捨てないであげてね」
と言われ、全くお咎め無しだった。
なので、もういいかと開き直り、今では一緒に中庭でお昼を食べる事が日課になった。
『ふふん、今日は唐揚げ弁当ですよ!』
中庭のベンチに腰掛けて、お弁当を取り出す。
お昼を一緒に食べるようになって知ったのだが、明智先生は食に頓着しない性格らしい。
先週一週間、ずっとコンビニのお弁当だったので、今日からは私が作ってくることにしたのだ。
これでも料理は得意なんですよ。
「おや、期待していた以上の出来ですね」
『これでも、料理は得意です』
「そうですか。では、いただきます」
そう言って、明智先生は唐揚げを口へ運ぶ。
味付けは濃くないだろうか。
先生の口には合うのだろうか。
最近ニンニクを使うのが流行りらしいが、においがきつい物はきっと仕事に差し障るだろうから、あえて使わなかったのだが、気付くだろうか。
内心凄くドキドキしつつ、それを顔に出さないように心がけて、じっと明智先生の感想を待つ。
「とても…」
『と、とても…?』
「とても美味しいですよ」
『ほ、本当ですか!?』
「嘘をついてどうするんですか…
程よい味の濃さで、今流行りのニンニクを使っていない唐揚げ…
さつきさんの心遣いを感じます」
なんと!
分かっていただけましたか!!
でも、とても綺麗な笑みを浮かべ、目を見つめながらそんな事を言われたら、恥ずかし過ぎて爆発しそうです!
『お、お褒めに預かり光栄です…』
そう私が言うと、明智先生は笑みを一層深めた。
綺麗な笑顔なのに、何故か凄く怖い。
これはまずい。
非常にまずいぞ。
何がまずいってそれは…
「さつきさん、はい、"アーン"」
ほら!
明智先生が唐揚げをお箸でつまんで私の口へ運ぼうとしている!
『い、嫌です!こんな人前で無理です!』
私が全力で拒否すると、明智先生は更に笑みを深め、とんでもない事を言い出した。
「では、いい加減"明智先生"というのをおやめなさい。」
『いや、ここ学校ですし!』
「私とさつきさんが付き合っている事は周知の事実。今更何を恥ずかしがる事があるのです」
『そういう問題じゃないんです!』
そう、ここは学校だ。
いくら周知の事実とはいえ、一般的に教師と生徒の恋愛はタブーとされている。
それなのに、"光秀さん"などと明らかに付き合ってますアピールをする様な呼び方はしたくない。
だから、いくら強要されようと、校内では"明智先生"と呼ぶことを心に決めたのだ。
まあ、一緒に昼食を食べている時点で既にアピールしている事にはなるのだろうが…
アレだ、ケジメだ。
ある種のケジメだ。うん。
『ほ、ほら、学校から一歩外に出れば、"光秀さん"と呼んでいるじゃないですか!それで満足してください!』
「そうですね…
私に大人しく"アーン"されるか、光秀と呼ぶか、どちらかを選んで下さい」
『どっちも嫌です!』
「では、今週末、私とデートして下さい」
『Why!?』
「さあ、どうしますか?
私とデートするか、"アーン"され、且つ私の事を"光秀"と呼ぶか…」
そう言って、明智先生は唐揚げを私の口に更に近付けた。
デートするか、今ここで"アーン"され、且つ光秀さんと呼ぶか。
答えはすぐに決まった。
『デート…しましょう』
「はい、では詳細は後程メールで連絡させて頂きますね」
『…はい』
明智先生とデート。
初めてのデート。
実はとても嬉しくて、天にも舞い上がる気分なのだが、それを伝えると調子に乗りそうなので、心の中で思うだけにとどめた。
『先生、何で"アーン"なんてしようと思ったのですか…?』
「ふふ…貴女の眼差しが、誘っているように見えたので、つい」
『……?』
「私が唐揚げを食べている間、熱っぽい視線で私の口元を見ていたでしょう?」
『!!』
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