一万打御礼! | ナノ


▼ 興奮しますね

【興奮しますね、もちろんそういう意味で】

「じゃあ、保健委員はさつきちゃんで良いと思う人ー!」

学級委員長のその声に反応して、躊躇いなくあげられる、クラスメイト達の手。

『待って、私保健委員に立候補すらして無いよ!?』

「はーい、満場一致で保健委員はさつきちゃんに決定しました!」

『お願いだから私の話を聞いて!!』

何という事だ。
立候補もしていないのに、勝手に保健委員にされてしまった。
そりゃあ、明智先生は片想い中の相手だし、先生と一緒に居られる口実が出来るのは嬉しいけど!
以前、保健委員をやった子曰く、仕事量が半端じゃないらしいじゃないですか。
今は2学期はじめ。10月には体育祭がある。体育祭は嫌という程に怪我人が出る。通常の仕事である書類整理でも結構しんどいらしいのに、体育祭の怪我人の手当もあるとか…

『過労死する…』

そんな私のつぶやきは、誰の耳にも届きませんでした。



放課後、明智先生に挨拶をするために保健室を訪れる。
日本人たる者、礼に始まり礼に終わるべし。
我が家の家訓みたいな物だ。最低限の礼儀は守ろう。たとえそれがどんな相手でも。
ノックをして、ドアを開ける。

『失礼します』

「おやおや、また怪我ですか?」

そこには、回転椅子に腰を掛け、長い足を組んで優雅に紅茶を飲む明智先生がいた。
仕事しろよ、仕事。

『違います。怪我じゃないです』

「では、何用で?」

『明智先生、今学期の保健委員に任命されました、西野さつきです。宜しくお願いします』

ぺこり、と頭を下げて言った後、少し顔を上げて明智先生の顔を盗み見る。

『そんなに驚くことは無いでしょうに…私じゃ不満ですか』

とても驚いた顔で、ティーカップを落としそうになる先生。
そんなに目を見開かないでいただきたい。怖いです。夢に出てきそう。

「貴女…立候補したのですか…?」

『はいっ先生の事が好きで///』

自分が出来る最大限のぶりっ子を演じてみる。『』って何だ。『///』って何だ。
自分でやって言うのは何だが、これは無い。ありえない。
177の巨体がやっていいものじゃない。何という視界の暴力。

「……」

痛い、明智先生の無言が痛い。
痛い、明智先生の視線が痛い。

『嘘です、冗談です、すみません。もうしないので、お願いだからその養豚場の豚でも見るかのように冷たい目をやめて頂けないでしょうか』

その痛さに耐えきれず、がばり、と頭を下げる。勿論、深すぎず、浅すぎずの45度の礼だ。

「…冗談ですか。残念です」

明智先生が眉尻を下げ、悲しそうな顔をしてそう言った。
本当に悲しそうな声と顔で。

『ウサンクサイデス』

何て胡散臭い。
こちとら高1で入学してから今日までの1年と少し、ずっと明智先生を見てきたんだ。
先生は基本的に常に怪しい笑みを浮かべている。
こんな風に感情を表に出す時は、大概、否、絶対に何かを企んでいる時だ。
騙されん、騙されんぞ!

「ふふふ…通じませんか…」

『ええ!残念でしたね!』

「そうですか。まあ、それはさておき、貴女、丁度いい時に来ましたね」

そう言って、にんまりと笑う明智先生。
その顔を見た瞬間、背中が汗ばんだ。
何ですかコレ。嫌な予感しかしない。
例えば、溜まっていた仕事を押し付けられるとか。

『書類整理、手伝いなさい』

「やっぱりですかー!」

押し付けられた書類を整理する。
保健室を利用する際に、手当てを受けた生徒が書いた処置記録を、学籍番号順に並べていくだけの簡単なお仕事。
簡単なお仕事…のはずなのだが、

『字が…読めん…』

「ああ、……それは前田君のものですね」

偶に、解読不能な文字を書く生徒がいたりする。

『皆急いでるんだろうけど、もうちょっと綺麗に書こうぜ…』

「それを貴女が言いますか…」

そう言って、差し出されたのは私が書いた処置記録。

「何ですか、このやたらと漢らしい字は。字自体は綺麗ですし、読みやすいですが、女子としてこれは…」

『はは…』

荒々しく書かれた自分の名前を見て、苦笑いをする。
とめ、はね、はらい、が強調された荒々しい字。女子っぽい文字ナンバーワンの丸字とは程遠い。
いや、だって休み時間5分しか無いんですもん。次の授業に遅れるわけにはいかない。


『あ、これで終わりだ』

最後の一枚を、書類の束の適当な場所に突っ込んだ。
椅子から立ち上がり、背伸びをする。
何故だろう。明智先生がこちらをガン見している。

『何見てるんですか、明智先生のエッチ//』

先程同様、冗談でぶりっ子のふりをする。これはこれで楽しいかもしれない。相手に精神的ダメージを与えられて。
自分もダメージをくらうけど。

「そうですね…エッチと言われても仕方ないですね。白」

『白?』

いきなり白とか言い出すので、変態が行きすぎてついにいかれたかと思いつつ、明智先生の視線を辿る。
辿る。
タドル…

『うわぁっ!!?』

するとそこはスカートの末端付近。
何という事だ!私の筋肉質な太腿が丸見えだ!スカート丈が短くなっているのを忘れていた!
しかも若干裾がめくれ上がっている!
角度的に、中の下着が見えるか見えないかのギリギリまでめくれ上がっている!

『もしかして、みました?』

冷や汗をかきながら、明智先生に聞く。
今日だけでどれだけ冷や汗をかくんだ私は。

「もしかしなくても。
パンチラとは…しかも白とは…
ふふふ…興奮しますね、もちろんそういう意味で」


『イーヤアアアアーーーーッ!』

放課後の、誰も居ない校舎に、さつきの声が虚しく響き渡った。




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