▼ ミニスカート
【ミニスカートは好きですよ、脚が見えますし】
『あちゃあ…やっちまった…』
鏡の前で制服のスカート丈を確認する。
夏休みの間に、身長が幾分伸びていたらしく、スカート丈が短くなっていた。
元々身長は173cmと、結構高いのに、さらに伸びるとか…
もしかしたら、170cm代後半に突入してるかもしてるかも知れない。
ちなみに、「短くなっていた」と言っても、元の丈が長いので、膝がギリギリ見えるぐらいなのだが。
新学期初日から校則違反するのはすごく嫌だが、丈を下ろす時間は無いし、もう一つ大きなサイズのスカートは持っていない。
「さつきー!遅刻するわよー!」
『うわっ!』
いつの間にか、家を出る時間になっていた。
校則違反をする上に、遅刻とか絶対嫌だ。
『行ってきます!!』
「行ってらっしゃい」
朝ご飯のおにぎりを頬張りつつ、学校まで走った。
「おにぎりを食べながら走っていたら、階段を踏み外して怪我をしたので、絆創膏を貰いに来た…と」
『…はい』
「ふふ…お転婆さんですね」
『……はい』
結局、始業式には間に合った。
でも、通学中に階段を踏み外し膝を盛大に擦り剥き、血がダラダラ出ている状態で席に着こうとしたら、担任に「保健室に行って来い」と言われてしまった。
白い靴下が、流れ出た血で徐々に赤く染まって行く様は、はたから見ていると軽くホラーだったらしい。
ちゃんと出席扱いにするから、と言われたので一安心。
初日から遅刻は免れた。
「水が染みて痛かったら、遠慮無く言ってくださいね。もっと痛くして差し上げますから」
保険医の明智先生が傷口を丁寧に洗ってくれる。
明智先生、性格や趣味はアレだが、顔と声だけはとても良い。
ついでに、治療や手当てもとても丁寧だ。痛いけど。
そんなイケメンに足を洗って貰うとか、結構、凄く、恥かしい。
あまりに恥かしいので、
『洗うぐらい自分でする』
と言ったのに、
「いえ、これも仕事ですので」
と言われてしまった。
仕事とか言われたら断れないじゃないか。
「それにしても…貴女のは本当によく怪我をしますね」
『あー…バスケ部なんで』
「あの、いつも礼儀正しい部長さんが血相を変えて
「車椅子を貸せ!いや、寧ろお前が来い!」
と言いながら乱暴に保健室に入って来たのも、貴女の怪我が原因でしたね」
『靭帯損傷した時の事ですね…。お世話かけました』
女子バスケ部に所属する私は、身長のおかげか、エース的なポジションだ。
練習試合中に、相手の無茶なプレーに巻き込まれて、靭帯を損傷したのは記憶に新しい。
いきなり足首が痛くなり、歩くだけで激痛が走る。痛みに耐えながらプレーを続けていたら、気を飛ばしてしまって、その場に倒れ込んでしまったらしい。
不幸中の幸いで、切れてはいなかったため、二ヶ月もすると練習に参加できるようになった。
「ええ…床に倒れ込んでいる貴女を見て、柄にも無く冷や汗をかきましたよ」
『あ、そういうリップサービスは良いんで』
「おやおや、つれないですね…残念です」
明智先生は冗談のつもりで言っているのかも知れないが、こちとら高過ぎる身長のせいで、恋愛面での青春を謳歌し損ねている女子高生だ。
そんなことを言われたら、深読みしたあげく、撃沈するのが目に見えている。
こう言うのは、スルーするに限る。
「そういえば、また身長が伸びましたか?スカート丈が短い気がします」
『バレましたか。ええ、伸びましたよ!!』
「測りますか?」
身長測定器を指しながら、明智先生が楽しそうに言う。
さすが、変態。さすが、ドS。
他人が落ち込む姿を見るのがそんなに楽しいか。
手当も終わり、身長測定器の上に立つ。
心の準備は出来た。どんな結果でも驚かないぞ!多分。
さあ来い!
「170……7。177cm前後ですね」
『マジか…』
やはり170cm代後半か…。
いくら心の準備していたとしても、少し悲しい。いや、本当の事を言うと、とっても悲しいし、虚しい。
今なら清水の舞台から、紐なしバンジー出来るんじゃ無いか。
「いつか、私も抜かされてしまうかも知れませんね」
『先生を抜かすとか…絶対に嫌です』
明智先生の身長は、目測でも180cmを越しているのがわかる。
女子で180cm越えとか…今はやりの雌型巨人じゃないですか…。
嫌だ、まだ駆逐されたくない。
『手当していただいて、有難うございました。そろそろ帰ります』
「そうですか。寂しいです」
『いや、だから本当に、そういうの要らないんで』
「そうですか…。そうそう、最後に一言だけ…」
『何ですか?』
何だろう。
嫌な予感しかしない。
「ミニスカートは好きですよ、脚が見えますし。なので、ずっとそのスカート丈でお願いします」
『……』
案の定、変態発言をぶちかました明智先生を無視して、そそくさと保健室を後にした。
全く…
あんな変態に一目惚れして、性格や変態度知っても尚、恋をしているとか…
『本当にどうかしてるわ、私』
深い、深いため息を一つついた。
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