十万打リクエスト | ナノ



 スタート、確認しました。


 お帰りなさいませ。
 ようこそ。こんにちは。ウェルカム。


 いつものように、大変長らくお待ちしておりました。マスター。


 霊子虚構世界、SERIAL PHANTASM
──略称SEセ.RAラ.PHフ。
 ここはセラフ内部の仮想空間、月海原学園です。


 早速ですが、規則の為貴方のバリューを──




 失礼いたしました、名字 名前様。
 おはようございます。いってらっしゃいませ。








 落下には果てが無い。
 ひたすらに流されていく、落ちていく、削げ落とされていく自己のイメージ。

 どれ程経ったのだろうか。

 視界はおろか、持ち物も記憶もポロポロと落としていって、いずれは骨すら残らない。
 どうしようもない、抗いようも無い事実。

 ──ゲームオーバー。そんな言葉が脳裏をよぎる。

 どこで間違ったのか。きっとこの運命を変える方法がどこかにあったはずだ。
 その選択を早まった。誤った。間違った。
 凄まじい後悔の念に顔を塞いで涙する。

 しかし、枯れ切った涙は一滴たりとも流れ落ちない。
 声は喉から吐息の形で零れ出て、何の音にもならない。
 涙を流せたところで、喚き声を出せたところで、無意味なのだが。
 こうなってはもう私は救われないのだから。



 一瞬とも、永遠ともとれる、何も比べるものの無い空間での落下は無重力に似ている。

 日の光すらもう思い出せない。かつていた地上は遥か彼方になった。
 手足ももう思うように動かない。麻痺、いや退化したのだろう。
 眼球も光を忘れ、とうに機能を失った。
 心も、変化の無い外界に飽きて、緩やかに閉鎖していく。

 泥のような体と鉛のような心。眠らせてしまいたい。忘れてしまいたい。
 永遠にこのままではないかという不安から目を背けて壊れてしまいたい。

 ──けれど。

 何か、意識の外皮にかすっていくものがある。
 気のせいだろう。
 磨耗しきった心に引っかかるものがある筈がない。
 だが、どこかで希望に縋っているのだろう。
 心が見せた幻でも、その声は聞き逃せない。
 遥か遠くから、その声は光の尾を引いて全身を燃やしながら、なお加速する。

 ──上を向け。

 ──手を伸ばせ。

 ──ただ一言、 を呼べと。

『       』

 使わなくなって何万年も経った喉と肺に熱を入れる。
 声は声にならない。指先すらまだ動かない。
 あぁ──やはり幻聴だったのだろうと、心はまた蓋を閉じる。
 なのに。

「貴様…諦めるのか?」

 声がする。
 何処まで続くかも分からない暗黒にいくつもの光が過ぎていく。
 身を削りながら、その暗黒を切り裂いて走る流星が見えている。

「──希望に縋るだけの気力も、気概も無いのなら、そのまま虚数に飲まれてしまえ」

 どこかで聞いたことのある声が聞こえる。

「貴様はどうしたい」

 懐かしい、忘れてはいけない声が聞こえる。

「返答次第では、力を貸してやらない事もない」

 その輝きを、声を知っている。
 失われた喉に、衰えた腕に力を入れる。
 彼の名は──

『……石田、三 成…!』

「契約は完了した。
以後、貴様が私のマスターだ」



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