──何これ。
──何これ、プレゼント?
目の前に差し出された小さな包み。
リボンが少し歪んでいるのは、左近くんがこれをカバンの中にしまっていたからだろうか。
『ありが、とう』
お礼を言って、包みを受け取る。
別に怒ってないのに。
ちょっと寂しくて。
左近くんが"三成様"しか言わないから、子供みたいに拗ねて困らせてやろう、と思っただけなのに。
「見捨てないで、な?」
今にも泣きそうな顔で、そんな台詞を言わないで。
上級生のお姉様方が、彼の事を"わんこ系"と形容したのがやっと理解できました。
これは、やばい。
母性本能とか、そういう類のものを擽られる。
『見捨てるも何も、ちょっと拗ねてただけだよ…?』
高い所は駄目。
揺れるのはもっと駄目。
だから、左近くんにしがみついたまま。
左近くんの顔を見ないように、彼の胸に顔を埋めて、呟いた。
「マジ?怒ってない?優柔不断でもいい?」
『うん。たまにこうしてデートしてくれるなら、全然構わない』
「マジか!!」
頭上で嬉しそうな声がする。
そして、私の頭を、髪を撫でる感覚。
嫌いじゃない。
ううん、好き。大好き。
ちゃんと顔を見て、目を見てこの気持ちを伝えようと思って。
そう思って、顔を上げる。
「……ん」
唇に、暖かい感触。
視界いっぱいに、左近くんの顔が広がっている。
女の私より長いまつ毛…羨ましいな。
現実逃避しかける思考をどうにか繋ぎとめて、抗うように左近くんの肩を押す。
『…いきなり、びっくりした』
触れるだけのキス。
付き合ってから初めての。
生まれてから初めてのキス。
どんな反応をすればいいのか分からない。
何と無く、とても恥ずかしくて、ぷい、と顔をそっぽへ向けた。
「ごめん、名前があんまり可愛いから、つい…」
『……責任』
「へ?」
『責任、とってね』
私のファーストキスを奪ったんだから、責任とってね。
責任とって、私のお弁当を毎日食べてね。
早口でまくし立てると、左近くんは今まで見た中で一番いい笑顔で、大きく頷いた。
『左近くん、明日のお弁当、期待してて』
「あ、じゃあ生姜焼き入れてよ」
『ラジャー!』
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