十万打リクエスト | ナノ


──賑やかな音楽が流れている。
──人が、老若男女、様々な人々が、楽しそうに歩いている。

賑やかな音楽と、それを楽しむ人々の声。
煩いのは嫌いだけど、この騒がしさは嫌いじゃない。
それに──

「名前、次は何に乗ろうか?」

それに、左近くんが隣にいる。
突然、
「今週末、暇?」
って聞かれた時は驚いたけど。

ううん、その時だけじゃない。
今日の今日まで、ここに着くまで、私は何処に行くのか、何処に連れて行って貰えるのか知らされていなかったから。

『そうだなー…』

遊園地に連れて来られて。
まさかそんな所に行くとは思っていなかったから、
「チケット代を払うと今月のお小遣いがなくなってしまう」
と言えば、彼は満面の笑みで前売り券を渡してきて。

「名前が好きなやつ、言ってよ」

ああ、きっと。
きっと、これはご機嫌取りなんだな、って直感した。
何処か抜けている左近くんが"ご機嫌取り"なんていう芸当を出来るはずがない。
大方、竹中先輩に何か吹き込まれたんだろう、とも思った。

『えー…じゃあ…』

ご機嫌取り。
それなら、今日は目一杯振り回してやろう。
密かにそう決心して。

『じゃあ、お化け屋敷行きたい』

あえて、左近くんが一番苦手な物を選んでみた。







『左近くん、本当にお化け苦手なんだね…』

「ゴメン、マジごめん。
偽物だってわかってても、無理。
お化けだけは無理」

うん、知ってた。
思わずそう言いかけて、慌てて言葉を飲み込む。
真っ青な顔で、本気で具合悪そうだけど、元はと言えば左近くんが悪いわけだし。
私は悪くない。
ちょっと、かなり罪悪感はあるけれど、今はそれから目を逸らす。

『じゃあ、今度は左近くんが乗りたいもの選んでよ』

「あー…」

知ってたのに、意地悪してごめんね、と心の中で謝って。
ちょっとした罪滅ぼしに、今度は左近くんが乗りたい物に乗ろう、と提案する。

「観覧車…」

『観 覧 車 …』

観覧車。
高い所からの眺めを楽しむための遊戯施設。
所謂、デートの定番スポット。
二人きりのゴンドラでプロポーズされるのは、乙女の誰もが一度は夢見たシチュエーションだろう。
私も、憧れた時がありました。

『ウン、イイヨ、イコウ』

これはアレか。
意趣返しというやつなのか。
左近くんは、私が高所恐怖症だという事を知っていて提案しているんだろうか。

「名前…?」

『…いえ、何でも。行こう、観覧車』

──彼の反応を見る限り、どうやら知っていて提案しているわけでは無いらしい。



prev next
back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -