十万打リクエスト | ナノ



お父さんが昨日拾って来た男性2人。
赤毛で無口の風魔小太郎さん。
茶髪で何故か一人称が"俺様"の猿飛佐助さん。
今朝、寝ぼけたままリビングに行くと、猿飛さんが無表情でお父さんの首にクナイらしきものを突きつけていて。
どうにか説得してクナイをしまって貰って、喋らない(喋れない?)風魔さんのかわりに此方に来た経緯を説明して貰えば、常軌を逸した答えが返ってきた。

曰く、元いた世界は戦国時代だったらしい。
曰く、2人とも元いた世界では忍者をやっていたらしい。

──忍者。某漫画の影響で、外人さんに影分身とか使えると思われちゃってるアレ。

冗談で、
『じゃあ猿飛さんも影分身とか出来るんですか?』
と聞くと
「できるよー」
と、何でもない事を言うかのように軽く返されて。
次の瞬間、漫画の効果音のような"ボンッ"という音と煙とともに猿飛さんが2人に増えていた。

異世界って凄い、という陳腐な感想しか思い浮かばない私の貧相な頭が恨めしい。

異世界の戦国から来た彼等。
我が家は父母私の三人家族なので、若い男性が着るような服は全く無くて。
それに、歯ブラシとか、下着とか、生活必需品も足りないから、2人を連れて近くのデパートまで来たのだけれど。
けれど、此方で普通のものは彼等にとって珍しく、新鮮なものらしく。

「ちょっとこれどうなってんの!?」

「…!」

「全面玻璃。しかも一枚がこんなに大きい…!」

「…!!」

『風魔さん、猿飛さん、あんまりはしゃがないで下さい!』

さっきから。
ううん、30分前から。
ずっと、ずうっと、床以外ガラス張りのエレベーターを食い入るように見つめている。

『ほら、行きますよ!』

いつまでたっても動こうとしない2人の手を取って、男性服のフロアへと歩き出す。
此処は一階。男性服のフロアは3階。
自然、エレベーターかエスカレーターを使う事になるわけで。

「この玻璃の強度…どうなってんの…?」

「!、!!」

他の人が乗っていないのを良いことにエレベーターの中ではしゃぎまくる
2人を見て、私は今日何度目かわからないため息をついた。







『お金に糸目はつけません。彼等に似合う服を。出来れば、着回しのきく物をいくつか見繕って下さい』

「…は、はい!ブランドに拘りなどは…?」

『無いです。似合って、着回しのきく物なら何でも良いです』

「わかりました!1、2時間ほど頂きますが、宜しいでしょうか?」

『はい。宜しくお願いします』

ショップの店員さんとそんなやり取りをして、2人を店員さんに預けてからかれこれ2時間。
フロアの隅にあるベンチで単語帳を読んで時間を潰していると、頭上から"お客様"という声がかかった。
それに頷き、2人がいる場所に案内してもらうと、そこには黒山のような人集りが出来ていて。

「もしかして、モデルさんですか!?」

「も、もでる…?」

「この後、もしよければ一緒にお茶でも…!!」

「……」

「あ、握手して下さい!」

「ごめん、嫌」

「メルアド教えて下さい!」

「????」

『……イケメンって凄い』

人集りの真ん中には、ファッション誌のモデルみたいなイケメン。
お父さんの白シャツとジーパンでもカッコよかったのに、店員さんのコーディネートのおかげでイケメンっぷりに磨きがかかっていて。
──うん、素材って大事だな。

『……支払いは、これで』

あの山の中に入って行く勇気はない。
取り敢えず。取り敢えず、支払いを済まそうと私はお父さんから預かったデビットカードを店員さんに渡した。

猿飛さんが恨みがましい目で此方を睨みつけていたけれど、私は何にも知らないし、見ていない。
見ていないんだから。





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