捧げ物 | ナノ


▼ 女中と俺様

『猿飛さん、またいらっしゃたのですか…』

洗濯物を入れたタライを抱えたまま、目の前に生えている木を見上げて声をかけた。

「あちゃー。ばれちゃったか」

『隠れる気など、無いのでしょう?』

「そんなことないよー」

『一介の女中に気配を悟られるようなお方では無いでしょうに…』

「名前ちゃんってば、俺の事買いかぶりすぎ!」

数枚木の葉が散ったと思えば、私のすぐ隣に彼が立っていた。

『猿飛さん、何度言われても断りますよ』

「俺様まだ何も言ってないよ?後、猿飛さんじゃなくて佐助って呼んで?」

彼は猿飛佐助さん。甲斐の虎と称される武田信玄、そして甲斐の若虎と称される真田幸村に使える忍びだ。

私の主人である雑賀孫市様に用があり、彼がこの雑賀荘に初めて訪れたのが3月ほど前。
その時にお出しした茶菓子を大層お気に召したらしく、

「君があの茶菓子を作ったんだって?是非、武田の女中にならない?給料弾むよー?」

と、お声をかけて頂いたのだ。

だが、私の主人は孫市様ただ一人。
戦で村を焼かれ、親も親戚をも失い、天涯孤独となった幼い私を保護して下さった孫市様。
彼女以外のお方に仕えるなど、想像も出来ない。
なので、

『せっかくのお誘いですが、私の主は一生涯、孫市様ただ一人ですので』

そう言って丁寧にお断りしたのだ。
それ以来、事あるごとに猿飛さんは雑賀荘訪れ、私に話しかけてくる。
猿飛さんのお話は面白いし、嫌いじゃない。むしろ好きだ。
だが、毎度毎度「武田へ来ない?」と言われると流石に鬱陶しいのです。



『佐助さん、はい、名前でお呼びしましたので、早々にお帰り下さい』

「名前ちゃん…冷たい…」

そう言って猿飛さんが項垂れた瞬間、彼の顔の横を銃弾がかすめた。

「!?危なっ!!」

「からすめ。貴様の存在の方が危険だ」

銃を片手に、颯爽と登場したのは我が主、雑賀孫市様。
いつも、猿飛さんに絡まれている私を助けて下さる心優しい孫市様。

『孫市様!!』

「名前、何もされていないな?」

『はい!孫市様が心配なされるような事は何も!』

「えー…何この温度差…俺様泣いちゃう…」

猿飛さんがそう呟いて、泣きそうな顔をした。
何度も言いますが、決して猿飛さんが嫌いとか、そのような事では無いのです。
ただ、優先順位が
孫市様>雑賀衆>猿飛さん
というだけなのです。

『あの、洗濯物がまだ残っていますので、失礼します』

タライを抱え直し、ぺこりと頭を下げる。
同僚達が働いているのに、自分だけ楽しくお喋りするわけにはいかない。

「邪魔しちゃったね。名前ちゃん、お仕事がんばってねー」

そう言うと、猿飛さんは私の頭を撫でて、何処かへと姿を消した。
後に残ったのはわずかな煙のみ。

『流石…忍…』

その煙を眺めていると、孫市様が私の横で
「からすめ…」
と呟いたのが聞こえた。




「うん、一生懸命働いている名前ちゃんも可愛いな…あんな子が嫁に来てくれたら良いのに」

「見つけたぞ!忍などに私の名前をやる訳がないだろう!!」

「うわっ!?いきなり発砲とか酷くない!?」



ーーーーーーー

明日香様、キリ番リクエストありがとうございました!!
長い間お待たせしてしまって本当にすみません!!

私の中の佐助さんはこんなイメージなのですが…ご期待には沿えましたでしょうか??

書き直し、承りますので、お気に召されなければ遠慮なくどうぞ!!






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