第三説



こんな可愛らしい女の子が、いるなんて。
昌浩少年、きみは素晴らしい!


「昌浩のお嫁さん候補?」
「なっ、ちょっ、ちが…!」
「え、……あの、私、」
「目聡いな、咲希」


どきんと肩を跳ねさせた昌浩と、頬を赤らめ戸惑う美少女の横で、もっくんは器用に前足を立てる。
にやりと悪戯にきらめく朱の双眸に、同じように親指を立てて見せた。


「昌浩なぁ、疎いくせに鋭いっつーか、しかも押しが足んないしよぉ。それって男としてどうなのよ」
「あれま、そうなの?男は押しが強くなきゃ。こんなきれいな子、この先見つかんないよ?」
「この際だ、思いを告げちまえ!…っつても、こいつら心ってゆーの?そっちで繋がってるからなぁ。今更と言っちゃ今更なわけよ」
「おお、そりゃ良いじゃん。告白しなくても心は繋がってるの……みたいな?」


もっくん!咲希!と顔を真っ赤に染めた昌浩から怒号が飛んでくる。
それをけたけた笑いながら、もっくんとやり過ごした。

晴明さまの爆弾発言を受けてから、まだ何十分と経っていないだろう。
あの後、ひとまず部屋に戻っていいと許可を得た私は、晴明さまの部屋を出た。ここに来たばかりで自分の部屋があるわけでもなく、どこに行くべきか逡巡した私は、とりあえず昌浩の部屋にお邪魔することにしたのだ。昌浩は快く受け入れてくれたため、気兼ねなく部屋に向かう。到着して妻戸を開けてみると、そこにはなんと、美少女が端座していたのだ。

腰よりも長いと見える黒髪が、燭台に灯されたひかりのなかでも漆黒を保つ。突如訪問した私を見て、緊張をはらんだ大きな目がかすかに揺れる。彼女がまとう雰囲気に、私と正反対と言える気品やたおやかさがあるのは、きっと気のせいではない。

先程の発言に慌てた昌浩は挙動不審になって突如立ち上る。火照った顔を冷ますかのように、簀子に出て手を顔の横でぱたぱたと振る後ろ姿に、くすりと笑みを漏らしてから昌浩の部屋にいた美少女の前に座った。昌浩について行ったもっくんはよいしょと後ろ足で直立する。前足を伸ばして、意味もなく夜空を見上げる昌浩の腰をぱふりと叩いたのだった。


「はじめまして、お嬢さん。夜分遅くにごめんね。これからここで一緒に暮らすことになった藤堂咲希です。お嬢さんみたいな可愛いこと仲良くできたらうれしいな」
「私は、……彰子。私もわけがあって、ここでお世話になっているの」


美少女――もとい、彰子がなにかに躊躇う。
一瞬目を伏せたが、すぐに上がった双眸が細くなっているのを見て、気のせいだと思うことにした。躊躇った彰子の顔にかげりが見えていたなんて。
ただの気のせい。そう、気のせい。
私が気にすることじゃない。

ぱっと開いた花のように、あたたかく笑む。
口許に手を添えるその仕草には本当に気品があった。


「じゃあ、お世話になる者同士、よろしくね。彰子」
「ええ、仲良くしましょうね、咲希」


彰子の微笑む顔がやっぱり可愛くて、私がへへと笑うと、彰子はふふと笑った。

そしてふと私の背後に目を遣ると、彰子はあらと珍しそうに声を上げる。後ろになにかいるのだろうかと、彰子の視線を追って振り返ってみるけれど、そこには依然と簀子で顔の火照りを冷ます昌浩しかいなかった。もっくんが勾欄に飛び乗っている姿が見える。
それだけで、なにも珍しいものはなかった。

再び彰子を向いて「うん?」と訊ねると、彼女はゆるゆると首を振る。


「いいえ、あの、六合がね」
「…六合?」


また、ついと私の後ろに目を遣る。
私もまた振り返った。しかし六合はいない。


「……六合、いるの?」


振り向いたままだれもいないそこに呼びかけると、すっと六合の気配が生じそこに現れる。つまり、隠形していたのだ。
六合の気配が生じたことにより、ようやく昌浩もこちらを向いて室内に戻ってくる。ひょいと勾欄から飛び降りたもっくんがぽてぽてと六合の足元に近寄った。昌浩が私と彰子のそばに腰をおろしたのを見て、六合もそこに胡坐を掻く。後ろで


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